五里霧中 ページ5
「この部屋にいますので、どうぞお話して待っていて下さい」
女性は目を伏せながら待合室と書かれた部屋のドアに手をかけた。「お話、ってまだ赤子だろ」というマイクの思考は、部屋の中にいた一人の子供によって絶たれた。
「……パパ？」
マイクはその姿とその言葉に肩を揺らした。同時に掛けようとしていた言葉も失い、その子から目が離せなくなってしまう。
そこに居たのは、四日前に見た赤子の姿ではなく、二歳ほどの少女だった。
白く長い髪は、少女の目を隠すほど長くなっていた。服は簡素な白いワンピースを着ていて、黒いソファにお行儀よく座っていた。
「パパじゃなくて、マイクさんよ」
「……マイク、イレイザー」
覚えたての単語を繰り返すようにか細い声を上げた。少し困った表情をして、女性は「すみません、少しあの子を任せてもいいですか？ 他の子達の様子が気になるので」とマイクに尋ねた。
二つ返事で「え？ あぁ、はい」と答えると、そそくさと待合室から出ていった。
バタン、とドアが閉まると、マイクは困ったようにして頭をかいた。
(参ったなぁ、子供相手に俺のジョーク通用すっかなぁ……)
そんなことを思っていると、少女はゆっくり口を開けた。
「マイク、ほん」
少女は机の上に置いていた本をマイクに見せつけた。本の内容は人魚姫で、表紙には可愛らしいデザインの人魚姫が描かれてあった。
「本……て、読めってことか？」
「おしえて」
小さく息をつきながら少女の隣に腰を下ろす。パラパラと本をめくり、少女は「これ」と指さした。
「あー、それは泡だな」
「あわってなに？」
いきなりの質問に「え？ 何って……」と戸惑っていると、少女は一度絵本の挿絵を見て、「これがあわ？」と指さした。
「そうそれだ！ そいつァ水の中で現れて消えるんだぜ！」
「水って、きれい？」
長い前髪を揺らしてマイクの方へ向き直した。「もちろんさ！ 一回くらい見たことないか？」とマイクが尋ねると、少女はゆっくりと首を傾げた。マイクは少し考えた後、ふと自分の鞄にペットボトルが入っていたことを思い出す。
声というものが自分自身を表すと言っても過言ではないほどの彼にとって、喉は絶対的に守らなければならない器官。常に潤わすことが大切だった。
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紫苑(プロフ) - うわああああ待って涙で前が見えないけどブラインドタッチィ―！うっうっ、涙腺が、涙腺が崩壊するたしけて (2月28日 17時) (
レス) @page47 id: 89604d43a6 (このIDを非表示/違反報告)
ただのらぁめん - 夜に読んでボロ泣きしました､､最ッッッ高でした (2023年4月2日 0時) (レス) @page47 id: 2cf0465f68 (このIDを非表示/違反報告)
San(プロフ) - 涙が止まらない素晴らしい作品でした（ ; ; ） (2023年3月1日 13時) (レス) @page45 id: b5216021f9 (このIDを非表示/違反報告)
rusya.(プロフ) - マイクパパｯｯｯｳｩｯｯ号泣。。素晴らしい物語に感化されました。ありがとうございました。。 (2022年12月13日 0時) (レス) @page47 id: f22ef2da16 (このIDを非表示/違反報告)
化け猫 - 涙が止まらないｯ!素敵な作品を作って下さりありがとうございます!生きてて良かったと思いました!(T^T) (2022年9月27日 16時) (レス) @page47 id: 7ab55173a1 (このIDを非表示/違反報告)
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