ここに君 いてくれるだけで俺は ページ31
陽が完全に落ちた夜。
もう潮騒は十分とばかりに彼はホテルへ戻った。
女将さんが特別に部屋まで持ってきてくれる夕食を半分ほど食べて、箸を置く。
ボーッとしていた。それはもう分かりやすく、あのレイナたちと別れてから。
｢…やまと、もうごちそうさま？｣
『……うん』
｢いらないなら食べちゃうからね｣
言葉は返ってこない。
前までなら絶対に、太るぞとか入んねぇだろとか言われたのに。
相当効いたのだろうか。
あの子の真っ直ぐな光が、心を閉ざしたやまとの闇に伸びているのかもしれない。
嬉しいような悔しいような複雑な気分だった。
｢明日さ、買い物行こうかな｣
『…俺は、』
｢どっちでもいいよ。来る？｣
明日は何となく海に行きたくなかった。
また彼女たちが居たら、今度はあたしはいない方がいいかも。
『バレたらいやだし、やめとく』
｢……分かった｣
支えたいと願ったのはあたしなのに。
あたしの言葉は届けられない。
ある意味同業者で、同じく身の裂けるような思いをしたからこそ
伝えられる言葉が狭まりすぎた。
2人きりのこの状況で何を期待していたわけじゃない。
辛いと言って涙を見せたなら、ただ抱きしめるつもりだった。
縋りついてきたなら…
『…てね』
あたしは、彼が縋りついてくることを望んでいたのか。
あの頃そうであったように、彼が生きる理由をあたしにして欲しかったのか。
だから、あんなにもレイナが眩しく見えたのだ。
恥ずかしげもなくありのままに自身の気持ちを言えるファンの彼女が羨ましく思えた。
『A』
｢なに？｣
あたしじゃやまとを救えない。
『買い物行っても早く帰ってきてねってば』
｢うん。分かった｣
見返りを求めるあたしじゃ、救えないんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 294人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
яeu(プロフ) - ららみさん» ご愛読ありがとうございました。ありがたいお言葉をいくつも並べていただけて大変嬉しく思います。新作を出した際にはぜひ覗きに来てください☺︎ (7月31日 19時) (
レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
ららみ(プロフ) - めちゃくちゃ好みど真ん中のお話で毎日更新されるのを楽しみにしていました😵💫💞完結は悲しいですがお話が素敵すぎて幸福感でいっぱいです、、！💘💘💘次のお話も楽しみにしています🫶🏻💓 (7月31日 0時) (レス) @page45 id: e947e550b2 (このIDを非表示/違反報告)
яeu(プロフ) - おりさん» ありがとうございます。ゆっくりではありますが確実に更新していきたいと思っております。 (7月13日 8時) (レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
おり(プロフ) - 楽しく読ませていただいてます。ご自身のペースで更新頑張ってください！ (7月12日 21時) (レス) @page25 id: 7292fb39fb (このIDを非表示/違反報告)
яeu(プロフ) - meloさん» 線香花火も読んでくださったのですね、随分時間が空いてしまったのにも関わらず読んでくださることに感謝です。ありがとうございます。 (6月28日 18時) (レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：яeu | 作成日時：2023年6月19日 20時
