LOVE

たとえゴールが無くても ページ22

最小限の荷物と最大限の勇気を携えて
夜が耽ける時間に家を出た。



夜逃げみたいだが誰にも何も言わず出てきた訳では無い。
きちんとメンバー4人には伝えて、とりあえず2週間。
コムドットを引っ張る先頭に立ってきた社長はお休みをする。



コムドットやまとではなく、鈴木大飛に戻るための期間。
その間は彼らも残りのストックの動画を全て出し終えれば
休みの期間に入る。



お休みします、と正式な報告の動画も撮れないほど
やまとの精神状態は不安定であり、どのような形で
公表するのかは4人に任せた。



今あたしができるのは、虚ろな目で過ぎてく景色を見てる
やまとの傍から離れないこと。



だれもじぶんをしらないところにいきたい、という要望に
応えるためなるべく人の目のない自然豊かなところを目指す。
次々通り過ぎていく眠らない東京の景色は
今のやまとには辛いだろう。



4時間半の車旅。
高速道路に乗り込んでしばらくすれば、強制的に外が
シャットアウトされる。



ここ最近目の下に色濃くクマを作ったやまとの寝息が
聞こえてきた瞬間ホッとして、アクセルを弱めた。



信号も歩行者もいない単調な道。
こんな道を、彼は知らない。
否。こんな道は最初から排除してきたのだ。



曲がりくねり、舗装もされずタイヤに穴が開くような道だけを選んできた。
有名になりたい、日本を取りたいと輝く頂点を見つめて
あたしの惨状を見ても尚増したその欲を、世界が殺 した。



なぜだろうか。
なぜ、同じ人間なのに。
世間に顔を晒し情報を晒した人間の前に顔も実名も晒さない卑怯者は
何の権限があって彼らを追い込むのだ。



｢人の立場に立って物事を言え｣と。
｢正論であっても言い方を考えろ｣と。
そう義務教育で教わらなかったのだろうか。



人のことを認めないくせに自分は認めてほしい。
現代に膨れ上がった承認欲求という名の闇にこのままでは
いずれ喰らい尽くされる。



終わりだ。未来など到底見えない。

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