【あんスタ】男だけど何か？

礼儀*２ ページ8

納得して首を縦に振っていると、彼は「ところで」と口を開いた。

「Aさんはどうして夢ノ咲に？」

「……んぇ？」

話が急カーブしたから反応が送れた。といっても、その質問自体は何らおかしくはない。

アイドルに憧れて、お金が欲しくて、ダンスが得意で、歌が得意で、etc……。話題としては一番取っ付きやすいんだけど。ううむ、どう答えるべきか。『昔っから女の子だと間違われること多くてさー』なんて異彩も異彩。多分あんまりいない。

あちらさんも反応に困っちゃうだろうし、個人的にそんな黒歴史は言いたくない。だから。

「……野望を果たすため、かな」

ここは、これが正解だ。

「野望ですか？」

「うん」

嘘は言ってない。本当でもないけど。

俺の返事を聞いた途端、彼は少しの間呆気にとられたように目を見開いて。

「……では、私も負けていられませんね」

なぜか。
なぜか、まるで咲いたばかりの花を愛しむように、慈しむように、瞳に優しさを滲ませた。

小さすぎたその声に、ごめん、なんて？と聞き返せば。司が俺の手を取って、変わらぬ瞳をゆっくりと細めて笑う。

「あなたの努力は計り知れない、と感服していたところです。この小さな手でどれだけの努力を積み重ねてきたのか……。想像もできません」

「お、おう」

ちょっと俺、もっと言うことあったろ。

でも、そうなの大変だったよ、と返すには自分は何もしてなさすぎる。したことといえば、せいぜい体力を上げるための走り込みくらい。

入学試験では々運動神経が良かったことが功を奏し、成績は中の上を叩き出せたけど。

「貴方の野望が叶えられるよう応援しています。努力する姿は美しいですし、何より格好良いですから」

格好良い。カッコイイ、かっこいい……。
ぐるぐるぐるぐる。メリーゴーランドみたいに脳内で回る。

格好良い……誰が？俺が？……俺が、格好いい？？

「おっ、俺が！俺が格好良いってホントにホント！？」

「勿論です」

えっ。うそ、嬉しい。

生まれて苦節、15年。
『死ぬまでに聞いておきたい台詞BEST3』に入るワードを聞くことができた！

「ありがとう！」

ぎゅうっと手を握り返して、感極まりながら両手をぶんぶん上下に揺すると。司はぱちくりと何度か瞬きをした。

「そんなに喜んでいただけるとは……」

「喜ぶってレベルじゃないよ！もう本当になんて説明すればいいんだろ、とにかくありがとう！ハグしていいっ？」

「は、hug！？えっと、それは少しマズいというか……」

何言ってんのかわからんないけど、ほんと、とにかく嬉しい。だって格好いいだよ、格好いい。なんて良い言葉なんだろう！！

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