312、信じて ページ18
「総悟、随分長湯していたな」
風呂から上がってしばらく、総悟はだるそうな顔をしながら待合室に戻ってきた。
その顔は火照っていて思わず駆け寄って額に手を当てる。
「のぼせてしまったか？少し横になろうか」
「………」
久しぶりの温泉で結構な長湯をしたというのに総悟の方が遅かった。
長湯をしすぎると吐き気がしたりするからな……。
こういう時は体を横にして冷やすのがいいんだが。
総悟は何も喋らず、ただ私をじっと見つめるのみで。
明らかに様子が変で眉が下がった。
お風呂に入っている間に何かあったのだろうか。
「総悟？」
「………A、」
「……総、悟？」
……やはり、何か様子が……。
「A、俺を……、俺を信じてくれやせんか」
「え？」
どういうことだ、と言おうとして口を継ぐんだ。
いつも以上に真剣そうな顔をしていて。
「……信じる」
よく分からないが、総悟のことを信じる。
そう言えば総悟は嬉しそうに破顔した。
「……んじゃま、愛の逃避行と行きやしょうか！」
そう言って私の手を取り走り出した。
着物姿で走りにくいけれど必死に足を動かして総悟の後をついていく。
「そのうち説明してくれるんだろうなっ？！」
温泉宿から外に出てからそう問い掛ければ肯定の言葉が返ってきた。
全く一体どうなってるんだか……。
そんなことを思いながら走り続けると不意に背後に気配を感じた。
ちらりと振り返れば……。
「総悟、」
「いいから走りなせェっ」
明らかに黒尽くめの怪しいやつが数人追ってきているんだがっ！？
一応刀は持ってきてはいるがこの着物だとちょっと動きにくい。
というか総悟も刀を持ってるのに何故逃げてるんだ……っ？！
暫く走り続けて息も上がってきた頃、たどり着いたのは。
「総悟！ここは崖だぞっ？！」
「分かってらァ！飛び降りんぞ！！」
「はっ！？ちょ、待っ！！！」
相当な高度があるぞ馬鹿なのかっ！？
「信じなせェ！」
そういいながら。
総悟と私は勢いよく崖の外へと飛び出した。
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ぴっぴ(プロフ) - めちゃ面白かったです！執筆お疲れ様でした！！これからも応援してます！ (2021年2月14日 11時) (
レス) id: 4559ad2a7b (このIDを非表示/違反報告)
まあちゃん(プロフ) - とっても良い作品で思わず一気読みしてしまいました！こんな作品に出会えて良かったです、完結おめでとうございます！ (2020年11月8日 3時) (レス) id: 0f8101d4ba (このIDを非表示/違反報告)
累(プロフ) - からしさんの作品どれも大好きです。また作品読ませて頂きます。 (2020年11月4日 21時) (レス) id: 755be2d6bc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：からし | 作成日時：2020年7月11日 21時
