305、目的に向けて(別視点) ページ11
「全く、使えない女でしたねアレは」
そう言って燻った鼠色の瞳の男はグラスの中でゆらゆらと揺れる赤い液体を見つめていた。
男が思い返すのは数ヶ月前の事だ。
影を憎む者同士、手を取り合って影を滅ぼそうと協力関係にあった女の組織が壊滅し、影はその存在を完全にないものとして扱われることとなってしまった。
「どう思います?影の師匠さん」
ゆらゆらと揺れる液体をしばらく眺めた男は、その顔を牢の奥に縛られている年のいった黒い髪の男へと向けた。
その男は手も足も鎖に繋がれているというのににこりと微笑む。
「さすが我が弟子達と言ったところだねえ、いやはや子供の成長は早いもんだ」
その呑気な声色に、鼠色の瞳をぎゅうと細める。
「それだけなんですか?やめろ、とか助けてくれ、とか言うもんだと思ってましたけど」
「話を聞いた限りだと白が一番成長してるみたいだねえ、俺は嬉しくって涙が出そうだよ、ヨヨヨ」
「………あなたと会話するのは疲れますね本当、なんなんですか」
「あ、そういえば今日の食事腐ってたよー、俺の腹がギュルギュルピーで大変な事になってるんだけど」
「もう話さないでください」
男は黒髪の男……、師匠と会話する事を諦めてため息をこぼした。
師匠は捕まえた時からずっとこの調子で、情報を聞き出すことが出来ずにいた。
(天人の力を利用して非力な人間を強化する研究……。その研究内容さえ知れればかなりの商売になるのは確実だと言うのに)
男ははなから緑と一緒に影を滅ぼす気などなかった。
憎しみの心があるのは事実。
しかし、それ以上に影の存在はその男にとって金のなる木そのものだった。
衰退してしまった組織もその研究内容を取り入れればかなりの戦力強化につながり、軍事的な事業へと踏み出すことができる。
争い事が好きな天人などいくらでもいるのだから、戦争なんてものはこの宇宙空間の中で毎日のように行われている。
彼にとって戦争は金になる仕事、商売だ。
それがもっと円滑に進むのなら憎しみの心は一度置いてそれを利用する事に注力しよう。
考え込んでいる男の元に、一人の少年がやってきた。
その少年はポツリポツリと言葉を発すると、男はにっこりと笑みを浮かべる。
「ああ、やっぱりですか。
……では次の命令です。緑を、春川緑遠を誘拐してきなさい」
その命令に一つ、頭を下げた少年はまた足音を立てずに立ち去っていった。
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ぴっぴ(プロフ) - めちゃ面白かったです!執筆お疲れ様でした!!これからも応援してます! (2021年2月14日 11時) (レス) id: 4559ad2a7b (このIDを非表示/違反報告)
まあちゃん(プロフ) - とっても良い作品で思わず一気読みしてしまいました!こんな作品に出会えて良かったです、完結おめでとうございます! (2020年11月8日 3時) (レス) id: 0f8101d4ba (このIDを非表示/違反報告)
累(プロフ) - からしさんの作品どれも大好きです。また作品読ませて頂きます。 (2020年11月4日 21時) (レス) id: 755be2d6bc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:からし | 作成日時:2020年7月11日 21時