I、愛、哀【谷山紀章】

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「え、早くない？」


白い息を吐き、
腕を組んで寒さを忍んでいる相方に
"昔にも同じやり取りしてる"
と言うと笑った


「じゃあ、行こうか」


その一言に
"何処に行くのか"
という疑問を抱いたものの
普通に相方の隣を歩いた


他愛もない話をしていると、
急に相方が立ち止まり"ここ"と指をさした


お昼と言う名のデザートが効いているのか、
お腹はさほど減っていないが
少しだけ食べよう…


着いたのは、
行ったときのないお店
店内は賑やかで、混んではいたものの
予約をしていたらしく、すんなりと入ることができた


A「急にこんなところに連れてくるなんて、
どういうつもりなん？」


「いや、ただ単に来たかっただけ
仕事で、中々時間空けることなんてできないし…
そしたら、今日来るのがベストかなって思って緊急に呼び出してみた」


手を"V"にする相方
今更、帰ることはできないし
ましてや、仕事を断ることなんてできない


店員を呼ぶなり、
すぐに注文し始める相方に全ては任せた
………どうせ、来たことがあるのだろう

そう思って、店員さんが置いた水の入ったコップを見つめる



「おーい、勝手に決めっちゃったけどいいの？」



A「いつもの事でしょ？」


「それもそうだけどね〜」


なんて、笑う相方
去った店員はすぐに飲物を持って戻ってきた


オレンジジュースと葡萄ジュースを置いて、
一礼して厨房へと戻って行った


「てか、夜中にチョコ作りとは…」


そう呟く相方に、
今日の最後の仕事がチョコ作りだということを悟った


最後の仕事は、
"Voice Cross"
という雑誌
通称、"ボイクロ"

同じアニメの出演で注目されたペアや
昔からの付き合い・恩人のペアなどを取り上げる
写真集みたいなものだ
だからと言って、写真だけではない
勿論、インタビューなども受ける

今回は、雑誌の責任者の方と相方が知り合いで
"良い人はいないか"
と言われたらしい
それで、選ばれたのが僕ということだ

数週間前にも、写真撮影は行なった

今日は、バレンタインが近いから
チョコ作りというお題なのだろう

今日で終わる雑誌の仕事に内心はホッとしているが、
終わった訳ではない

チョコ作り、というか
お菓子作りは、ある意味趣味ではあるが、
最近は作ったりしていない
作っていたのは、学生の頃だけだ
今なんて、作る暇なんて全くない
それくらい忙しい
上手く作れればいいのだが、
失敗したらどうしよう…

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