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重厚な黒机に積まれた書類の山をわきにやり、一枚の紙を取り出す
もうすでにゾムのサインが入ったそれに、今一度目を通した
「グルさん、頼んどったやつできた？」
きっちりノックをしてから入室してきたトントンは、端に追いやられた紙束をみて顔をしかめる
だが俺が手にしているものを見た途端、今度は泣きそうな顔になった
忙しいやつだな
「悪いが俺はこれにサインすることにした」
「…せやろな。あんたはそうすると思ってたわ」
「そうか。」
サラサラと自分の名前を書き込み、トントンに見せびらかす
[Aを特殊部隊に配属する
ただし、平時は情報官として勤務するものとする]
「よかったな、平時は“普通の”お仕事だぞ？」
「…特殊部隊よりはな」
「もう諦めろ、トントン。あいつの器は、今から普通を教えるにはイビツすぎるんだ。」
「可哀想とか思わんの？」
「やっかいな男どもに好かれていることに関しては深く同情する。だがあいつの幸せはあいつが決めるさ」
「じゃあ…俺が“普通の”幸せを教えるまでや」
「さすが頑固頭、めげんな。敵は多い方が盛り上がっていい」
赤い瞳には強い意志が宿っている
ああ、そうだ
「意思といえば、トントン聞いてくれ」
「なんや」
「Aに言ったんだ。転属について、お前の意思で決めろと。Aは迷って答えを出した。これをどう思う？」
「どうって…、自分で決めたんやったらもう俺から言うことはないやん」
「そうだ、自分で決めたんだ。Aが。ハッキング以外のことを」
思い出すだけで胸が躍る
瞳孔が揺れ、口を開くことを恐れるA
「自分で決めたと思っているんだ。自分には意思があると。その決定を、さも自分で下したかのように」
思想とは、他人の影響を無意識に受ける
だから最近Aは情緒というものがわかってきたし、自分の仕事や存在意義に悩み、倫理から外れた自分の存在で苦しみ、他者からの承認を求めるようになった
「いじらしいやつだ。一丁前に悩むことを覚えて」
喉の奥がクツクツと笑う
その思想を自分で作り上げたと思っているんだな
「ええやん、成長したってことで」
「ああ、特殊部隊に行くことを望むくらいには、我々に染まってきたというわけだ」
かわいい、かわいい、俺のA
少しずつ作り上げていってやる
「…知っとったけど、あんたほんまろくでもないな」
「褒め言葉として受け取ろう」
そうと気付かず俺に染められたAが楽しみでならない
あいつはもっと、美しくなる
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作者名：レック | 作成日時：2020年1月7日 4時
