狂愛方程式【3】 (ページ5)

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いつからやろう、煙草の煙の行く先を目で追うようになったのは
それは僕の知らないところで次第に“風読み”と呼ばれるようになった

空の戦いにおいて、動きの鈍い爆撃機は戦闘機のカモになる
戦争を制するにはまず空から
そう謳われ始めた時代に、僕は爆撃機乗りになった
まだグルちゃん達と建国の道を歩む前、自分の上官は制空権の取れていない空にも爆撃機を突っ込ませた
敵の戦闘機に撃ち落とされていく爆撃機(なかま)たち
そんな中僕は、陸軍の支援爆撃そっちのけで戦闘機と渡り合った

戦闘機と爆撃機の差を埋めるもの、それは地上から遥か上空で巻き起こる風
昔から話題に困った時は天気の話と決まっている
数々の女と空を見てきた僕、空気の流れはそんな男に味方した

｢大先生、戦闘機には乗らんの？｣
｢あんなん速すぎて僕が乗ったら100パー事故るで｣

グルちゃんの下で空軍総監になってからも、乗り換えることはない
だってこれは弔いでもあるから
地上で戦う仲間を支えるんだと、花形の戦闘機ではなく支援機を選んで散っていった同志への

｢ショッピ君目覚めたで｣
｢そーか｣
｢特に後遺症らしい後遺症は見受けられんけど、念の為今回は戦線離脱や｣
｢ん、それがええと思うわ｣
｢…なぁ、1個聞きたいんやけどさ。ショッピ君って惚れたら素直に好きって言うタイプ？｣
『ロボロさん？』
｢なに？何の話？｣
｢なんか目覚めてからAのことす、｣
『大先生お疲れ様でした。また明日の夜、報告お待ちしてます』

通信機で日課の報告を終え、ロボロと雑談していると出てきた後輩の名前
ロボロの言葉を遮って話すAちゃんの向こうから｢俺のマイク切るなや！｣とデカい声が聞こえて、通信が途絶えた

｢なかよーやっとるみたいで何よりですわ｣

思ってもないことを聞こえていない相手に言う僕
それは自分への慰めだ

＿『ロボロさん？』

久しぶりに聞いた彼女の声は、違う男の名を呼んだ
独占欲が強い方ではない、特にあいつらの中では
でも先輩を呼ぶ時、Aちゃんはどんな表情を見せるんやろう
あの整った顔立ちの、視線の温度はどれくらいで、魅力的な唇はどんな風に艷めくのだろう

｢会いたいなぁ｣

僕だけのAちゃんじゃなくてもいい
だが、僕の知らない、綺麗な彼女が増えていく
それは我慢できひん

鋭利な美しさと、未熟な可愛さを持つAちゃん

その毒に嵌った僕は一刻も早く蜜を味わうべく、煙草を吸って煙を追う