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「やっほー負け犬さん」
「お前もやろ」
観客席の隅の目立たないところに座ってたのに、オスマンはすぐに見つけて近づいてきた
今はあんまりこいつと話したくない
「すれ違った兵が心配しとったよ、まさか鬼の書記長が負けるなんてー！って」
「そうか。」
「前回と前々回チャンピオンが準決敗退で、大本命とダークホースの決勝ってドラマチックやない？」
「そうかもな。」
「んで、なんで負けたん？」
やっぱこいつと話したくない
糸目を開かずにこにこ聞いてくる
「俺がああいうタイプ苦手なん、知っとるやろ」
「予想外突かれるとトントンの強みなくなるもんな。ゾムとかAちゃんみたいな軍外育ちはほんまトリッキー」
「俺がそういうの苦手なんも読まれとったみたいやしな」
「そうやね、でもあれは避けれたやろ？」
「……」
Aがゾムの背面持ち替えを真似たのは予想外やったし、反撃は間に合わなかった
でも確かに、避けるのは間に合った
「…俺は、いくら才能があるからって人間として未発達のAをゾムの部隊にいれるのは反対や。いつか、あいつが後悔せえへんために。でも、A笑っとってさ。すごい楽しそうに。」
「その楽しみは間違ってるんや、でも俺じゃ止められへん。…だから、ひとらんに託した」
「…トントンは、Aちゃんに同情してるん？自分みたいにさしたくないって。
でもそれは、トントンのエゴやで」
オスマンの言葉が深く刺さる
それと同時に脳裏を過るのは、戦争に身を置いたせいで死を看取ってやれなかった家族の顔
自分が人を殺してる間に、俺は家族を失っていた
あの時、普通であればよかったと後悔した
人の死に悲しみを覚えて、人を傷つけることに躊躇いを持てる人間であればと
「こんな世界じゃ、人は綺麗にはおられへん。
それに、ほんまはわかっとーやろ？初めてゾムと戦ってるの見た時から。
あんな綺麗に殺気撒かれたら、認めるしかないやん。
Aちゃんには、元々の素質と才能、実力がある。」
わかってる、よくわかっている
俺みたいな人間とは違う、狂った才覚を持った人種なのだと
「…才能があるからって、諦めるのもちゃうやろ」
あいつは天才だと壁を作ってしまえば楽になる
そこで努力することをやめてしまえば、一生追いつけない
歯を食いしばって食らいついたから、俺は今あいつの隣に立っている
Aを諦められないことは、あの月の夜に惹かれた時からわかっていた
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作者名：レック | 作成日時：2020年1月7日 4時
