狂愛方程式【3】 (ページ29)

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場内は騒然としていた

「おい、嘘だろ…」
「ゾムさんが？何かの間違いじゃ、」
「手加減してただ！きっと、」
「手加減してあんな動きできるわけない！お前も感じただろ、あの殺気」
「何者なんだ？あの女。いきなり幹部になる実力者なんだろうけど、ロボロさんの部署だったよな？」
「そんなことよりお前ら見てなかったのか！？めちゃくちゃ美人だったぞ！鬱総監が言ってた絶世の美女って絶対あの人だ！」

ゾムが負けるとは誰も思っていなかったようで、Aちゃんの話題でもちきりだ
刀を素振りしながらさっきの戦いを思い出す

速度はほぼ互角
力はゾムの方が上
短剣の技量は彼女の方が上
でも終始押され気味だったのはAちゃん
元々正面戦闘には向いていないスタイルで、よくゾムに勝ったと思う

勝負を分けたのは唯一にして一瞬の鍔迫り合い
長剣同士の戦いが拮抗するとよくやるけど、力の差がある相手だと絶対やらない
だからAちゃんから絶対しかけることはないと思ってた
でも、それが盲点

押されていたところから彼女らしくない力技で挑発し、油断させ、そこにつけこんだ
まず弱みをみせるやり口が、どこぞの尋問官に似ている

ゾムが大きく力を乗せて上から振りぬく瞬間に
それを読んでたみたいに下から振り上げる
ただ振り上げただけでは、重力に従ったゾムの方が強いだろう
彼女の真価は、冷静に明解な角度を弾き出せる頭脳だ

一瞬で、動体の重心を理解し、力点を見極め、完璧なタイミングで支点に衝撃をぶつける
最近戦闘や病的なハッキングの印象が強すぎて忘れていた
機械に埋め込まれたあの数字と記号の海を自由に泳げる天才だということを

綺麗で、賢く、強い
でも、空っぽだった中身
今それは、歪みながらも埋まりつつあるけれど

「大丈夫、俺が、支えてあげる」

初めて小さな笑顔を見た時から決めてたんだ
この人を幸せにしたい、幸せになってほしいって
だって、折角出会えた、綺麗で儚い桜みたいな女の子

散るところなんて見たくない

「ふーーっ」
「お、緊張してるねえ」
「…オスマン」
「この大会に、何か思い入れでもあんの？」
「別に。」
「一位になりたいってわけでもなさそうやしなあ。」

余裕そうに笑っているオスマンはシャオロンの部下との初戦を軽々と突破したらしい

「優勝に興味なさそうなひとらんをそこまで真剣にさせるもんなんて、一個だけ、
いや、一人しかおらんね」

俺ができることは、Aちゃんに勝つこと
絶対に、負けない