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ワナワナと震える彼女は勢いよく背中に乗ったゾムさんを払いのけようとするも、あっさり躱され逆に腕を捻り上げられた。そのまま、ゴキン、と嫌な音が響く
彼女の絶叫と不自然に伸びた腕から、肩を外されたことが想像できた

「悪いけど、お前をおぶって帰るほど優しないねん。引きずってでも自分の脚で歩いてもらうで。」

冷たく突き放すような声で、ゾムさんは彼女を立ち上がらせる。

苦痛に顔を歪めるメイドなど視界に入っていないかのような歩調で、グルッペン様は私に歩み寄った

「帰るぞ、A。」

ぶっきらぼうな言葉に似合わないような優しい声
しかしその声に頷くことはできない。私1人でも、向かわなければ

しかしそんな考えを見透かしたようにグルッペン様は先手を打った

「お前の姉のことは心配しなくていい。そのためにゾムを行かせていた」
『…えっ?』

どうしてお姉ちゃんのことを、いつから、どうやって、
そんな思いが浮かんでは消え、浮かんではまた口に出す前に消えた

「いい加減、1人で抱え込むのやめてや。僕傷ついてまうで?」
「ほんま、なんで言うてくれへんの?」
「俺ら仲間ちゃうんけ」
「もっと信じてよ」
「絶対Aさんの味方っすから」

次々に降りかかる言葉には怒りなんて含まれていなくて、後悔と悲しさが滲んでいる

『ごめん、なさい…』
「こいつは裏切り者よ!!さっさと私と同じように痛めつけなさいよ!!」

金切り声で叫ぶ元メイドさん
裏切り者であることには変わりないのに、この人たちは私に手を出そうとする素振りもない。いっそ殴ってくれた方が罪悪感も薄れるというのに

「…大先生」
「はいよ」

ゾムさんの合図で私に近付いた大先生はポケットから耳栓を取り出した。狙撃の時偶に使うのだと言っていた、小さくて防音機能の高いもの

壊れ物でも扱うような手付きで私の耳を塞いだ大先生。それと同時に何人かが私とゾムさんとの間に壁を作り、その向こうへまた何人かが消えていく

耳栓の向こうの世界から微かな絶叫が聞こえる時間が過ぎ、数分後に音のある世界に戻された

震える私をなだめるように大先生は言う

「大丈夫や、なんも怖いことはあらへんよ。せやから、こっち帰ってき?」

背中をさする腕と耳元に響く声
緊張の糸が切れ、元々限界を迎えて弱った体は簡単に力を失う


薄れ行く意識で感じた、私を抱きとめる匂いは、不健康なタバコの匂い

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フェルト - 伏線回収が神!うらつくで稀に見るほんとうの鬼才のお方ですね!最高です! (2019年9月14日 10時) (レス) id: 00cb91440a (このIDを非表示/違反報告)
RaZu@らず(プロフ) - 伏線回収が…!ありがとうございます、わかりやすいです…これからも更新楽しみに待っております! (2019年9月6日 19時) (レス) id: a4ef94e121 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの子(プロフ) - 前作からの伏線がどんどん回収されてくのドキドキします…これからも更新楽しみにしております。 (2019年8月31日 7時) (レス) id: 54ffec1f7f (このIDを非表示/違反報告)
RaZu@らず(プロフ) - 嫉妬する総統さまが…!!!最高です……!!!!!!ありがとうございます…!!!!!!!!!!!! (2019年8月27日 15時) (レス) id: a4ef94e121 (このIDを非表示/違反報告)
琉兎(プロフ) - 主ちゃん可愛すぎっ!惚れてまう!!続きが気になるんじゃぁ!!!更新頑張って下さい、楽しみにしてます!! (2019年8月24日 17時) (レス) id: 3584f7d8aa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:レック | 作成日時:2019年8月18日 3時

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