西侍の短編集【Part2】 (ページ5)

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「…っ、起きて、起きてや照史、」

病院に運ばれた照史の手を握る。

「…淳太さん、きっと目を覚ましますよ！
信じて待ちましょう！！」

「うるさい！！…っもう、2人にしてや、…」

俺のとなりに着いてた使用人に、そう言う。
照史もさ、俺がここまで家のもんに反抗してんねんからはよ起きてや。

照史は難病やった。
それも「治しにくい」じゃなくて「治らない」病気。

照史は病気のことを隠して絵を描き続けていた。
そのせいで病気に蝕まれた身体は、もう余命どころの話ではなかった。

延命に延命を重ねたところで、もうきっと数週間ももたない。

「………っは、ぁ、」

「照史っ！！」

病院に運ばれて3時間くらい。
いや、もっと経っていたのかもしれない。

照史は、ようやく目を覚ました。

あの優しそうな目を、八の字に下がった眉毛を、
ピクピクと動かしていた。

「……ごめっ、なぁ…？」

俺がボロボロ泣いてるせいで頬を伝う涙を、照史は優しく親指の腹で拭った。

「…何がよっ！！」

「……ん〜………、っぜんぶ、かな、ぁ？」

あぁ、もう。淳太くんにはこんな顔させたくなかってんけどなぁ。

そう、ゆっくり言った照史。

照史が売れない絵を描き続けていたのは、
もう死んでしまうから。

貯金なんていらんから。

趣味を思いきり楽しんで死にたい。

そんな照史の願いからだった。

「……っきらいや、きらい、！死ぬんやったら、俺と仲良くならんといてや、悲しませんといてや！」

「……ごめんなぁ…、でも、もうおれあかんのやろう？」

また優しく微笑んだ照史。

ホンマにもうそれやめて。

心が、苦しくなる……。

「……っ、」

「すきって、いうてや、…っ」

閉じていく瞳。
ゆっくりと落ちていく俺の涙を拭っていた腕。

こんなに大きい気持ちを伝えるのには短すぎる時間。
躊躇う暇なんてなかった。

「………あい、してるっ、いちばん、すきや、っ！」

照史が俺の瞼の裏で微笑んだ。

照史が目を覚さなくなって、何日かした時。

いつものように、きっと意味のないお見舞いに来る。

ピーｯと音が鳴る。

俺の言葉に、満足したように消えて行った照史。

俺は家に帰って、震える手で、
下手やけど、下手なりに照史の似顔絵を描いた。

俺と照史を繋ぐのは、やっぱり絵なんやろうなぁ、
そう思いながら。

なぁ照史。

俺がお前のモデルになったホンマの理由は、
照史に一目惚れしていたのに気がついたからやで。