【文スト】ふぅん、私に逆らうんだ？【太宰治】

82#忘却、最適解 ページ39

〈太宰side〉

“忘却とは人間が生み出した、生存の為の最適解である。”

誰の言葉だったか、ふとそんな事を思い出していた。

何かで読んだか聞いたかすら一切記憶に残っていないのも、

其れについてを忘却してしまうことが私の最適解だったからなのか。

例えば、先刻Aが云った言葉。

“またいつか、瓦礫に埋もれた幻想庭で。”

聞き覚えのある…否、私がずっと追いかけていた科白だった。

彼女は屹度、逃げたかったのだ。

友人の命を己の手で奪ってしまったことから。

黒に塗れた殺しの世界から。

だから思わせ振りな言葉だけを残して消えてしまったのだろう。

私たちマフィアの人間には二度と会わないつもりで。

でも、残念だったねぇ。

Aは自ら離れた其の場所に、忘却ののちに帰ってしまったのだから。

尤も、私とはすれ違う形になってしまったけどね。

彼女が通話を終了したのを確認して、数段飛ばしで階段を駆け上がり探偵社へ戻る。


「あ、国木田くーん。私は鳥渡新しい自 殺法を試してくるよ。」


そして再び、先程潜り抜けたばかりの探偵社の扉を出て行く。

Aとすれ違うようにして。

これなら怪しまれることもないだろうしねえ。

先刻から彼女の通話している姿を見ていた事がバレてしまうわけにはいかない。

まずは裏を取りに行く必要があるんだ。

彼の子に気付かれて仕舞えば最悪の場合、

彼女の忘却の扉を無理にこじ開ける羽目になってしまうかもしれないからね。

ねぇA。

君がもし昔の出会いを永遠に思い出さなくても、私はずっと想い続けるからね。



______でも真逆、私の知らないところであんな事になっていたとは。



この時の私には知る由もなかったんだ。

彼女の異能の本当の姿なんて。

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