【文スト】ふぅん、私に逆らうんだ？【太宰治】

72#不安と電話 ページ29

〈太宰side〉

静かに時を刻んだ針は、もうそろそろ十三時を指そうとしている。

Aが依頼を片す、と云って出て行ってから随分と時間が経っているけれど、未だに帰って来る気配がない。

また何か変な虫に捕まっていないと善いのだけど…


「はぁ〜あ…暇だなぁ」


入水でもしてこようか、とお決まりの台詞を吐いて、机の上ですっかり伸びきった上体を起こす。

彼女の席に目を向ければ、

相変わらず見抜かれているらしく、椅子に掛けられた外套(コート)。

盗聴器は探偵社の音を拾っていて、国木田君の怒号が十割増しで聞こえてくる。

二人に同時に怒られている気分だねぇ。

GPSも探偵社でポイントが点滅しているだけだし…

居場所は判らないけれど、行くしかないね。


「太宰！貴様何時になったら仕事を遣るのだ！！

もう十一時から十三時まで二時間もサボっているだろう！！」


「厭だなぁ国木田君。私、十一時まではちゃんと遣ったじゃあないか。」


正直なところを云って仕舞えば、あの真面目なAが何時までも帰ってこないから、

心配で仕事をしているような余裕なんてない。

もう理想主義の彼を放っておいて外に出て行こうとした其の時だった。


Prrrr…


探偵社に電話が掛かってきたのは。

事前予約(アポイントメント)かな？

此れくらいの仕事も、遣れば国木田君に言い訳する材料になるなぁ。

受話器に手を伸ばすと、


「僕が出る。」


浅葱色の瞳が、机上の固定電話をじっと見つめていた。

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