【文スト】ふぅん、私に逆らうんだ？【太宰治】

64#黒い感情 ページ20

『おっ、お邪魔…します』


「ふふふ、そんなに緊張する必要はないよ。まぁ、其処ら辺でゆっくり寛いで呉れ給え。」


鳥渡だけ片付けさせてね、なんて云い乍ら、

そっちの部屋で、と彼が指差した先は寝室らしきお部屋で。

どうやら寝台ではなく、床に布団を敷く派らしい。

其れだけは綺麗に部屋の端で折り畳まれている。

そういうところは、几帳面、なのかなぁ。

…って何考えてるんだろ。

全力で首を横に振った。

自分でやった癖に、捥げそう。根元からぼっきりいきそう。

雑念を振り払うと、布団とは反対側の四隅の一つを選び、体育座りをした。


「やぁ、お待たせ。折角だから、二人でゆっくりと話したかったのだよ。」


『確かに…余りゆっくりと話したことはないよね。』


対角線上に私と向かい合うような状態で、布団の上に腰を下ろす太宰。

珍しく、鳥渡普通の事を云ったね。

何時も”入水“とか”自 殺”しか聞かない気がするから…

なんか新鮮だね！うん！！

……駄目だ。未だ、動揺してる。

いつもよりも速く刻まれる鼓動(ビート)は、静かになって呉れやしなくて。


「ねぇ、そんな所に居ないでさ。ほら、こっちおいで？」


ポンポン、と軽く自分の横を叩く。

矢張り解けない警戒心。

先刻よりはずっと気を許すようにはなったけど。

初めは迷って動かなかったけど、

結局は、少し困ったような表情に負けてしまう。


「ふふ、善い子だ。」


優しく頭を撫でる其の手つき。

屹度此の人は、何度もこういう事を重ねてきたんだろう。

…私だけじゃ、ない。

複雑な感情が徐々に自分を蝕んで行くようで、怖かった。

私だって、少女漫画の鈍感な主人公なんかじゃない。

本当は、気付いていた。

でも、気付きたくなかった。

だから、気付かないふりをしていた。

この、気持ちに。

だって、知ったら悲しくなってしまいそうで。

届かないものに恋い焦がれたって、

其の儘灼かれて地に堕ちるだけ。

そして、“其れ”にゆっくりと、呑み込まれていくだけ。







私を蝕む黒い感情(これ)は…






______________嫉妬だ。

65#紅い花→←63#サプライズ

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