【文スト】恋と帽子と包帯と。

10*昨日と後悔。 ページ10

恐怖。そして後悔。


私の脳内では、その二つの言葉がぐるぐると回っている。


…というより踊り狂っている。


何故なら_________



「おい手前。昨日は太宰と何していやがった？」



出勤するなり、背後に羅生門のように真っ黒いオーラを纏った、


中原さん改め中也さんに詰め寄られ、


現在進行形でジリジリと壁に追い詰められているからである。



『否っ、だから何もしてないですって！！』



「其の焦り様が怪しいんだよなァ？」



先程から必死に弁明するも如何やら逆効果らしく、


表情が次第に_____初めからだけど_____穏やかじゃなくなってきている。


聞いてみれば、昨日私が治と帰っているところを見つけたという。


其れについて問い詰められて、現在に至る。


一歩、また一歩と背後に下がれば、徐々に迫る壁。



…トン



『あ。』



背中に中るひんやりとした硬い感触に、即座に脳内に伝達された


【速報】坂口A、人生終了 のお知らせ。



「おい。」



『…はい。』



少しの静寂の後掛けられた声に、一気に緊張が走る。


裏切り者として、処罰という事も十分に考えられるよね…


早まる動悸を抑えつけ、固唾を飲んで次の言葉を静かに待った。



「手ェ繋いでたろ。彼奴と、付き合ってンのかよ。」



『…はい？』



然し、真剣な眼差しで此方を見つめる彼の口から飛び出した言葉は、


余りにも思っていたものとはかけ離れていて。


全く…お陰で素っ頓狂な声を上げてしまった。


今の私は、相当な阿呆面をしているに違いない。



『なぁんだ。ふふっ、そんな訳ないじゃないですか！』



安堵から来る、先刻とは打って変わった自身の陽気な声によって、


この空間のどんよりとした空気が一気に晴れたのを肌で感じる。


佳かったぁ…此れで万事解決だね。









_________そう、思っていた。此の時は。

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