【文スト】私が絶対に決まってるだろう？【太宰治】

兄 ページ28

其の日、憔悴しきった私が家に帰ると、兄がソファーに座って難しい顔をしていた。

その手には大量の紙。また資料でも見てるのかな。


『…ただいま。』


「うおっ、Aか。おかえり。」


一瞬驚きに目を見開いたけれど、直ぐに何時ものように微笑む兄。

トレードマークの絆創膏が、今日は首元にも貼られていることに気が付く。

異能を持たない兄、立原道造は、黒蜥蜴の十人長。

芥川さんの元で忙しくやっている事は知っている。


「如何した？そんな顔して。」


『何でもないんだよ、全然。疲れてるだけ。』


そんなことを云ってみても、心の隙間は埋まらなくて。

今でも未だ、すきま風が心の中で冷たく吹き荒れている。


「…異能か。」


流石私のお兄ちゃんだ。

何時でも私でも事なんか、何でもお見通しで。

俺じゃ頼りになんねぇか、なんて。

劣等感。兄の目に浮かんだ言葉。

其れでも、何時でも優しくて、護ってくれて、笑わせてくれて。

私は貴方の妹、立原Aとして、迷惑を掛けていませんか。


『まあね。でも、もう大丈夫だよ。お兄ちゃんが、いてくれるから。』


俺なんて。

そう云いかけて口をつぐんだのが分かる。


『私の、自慢のお兄ちゃんだよ。』


「…そうかよ。」


そっぽを向くけど、其れが照れ隠しだって、知ってるよ。

明日からは、普通に出社しなきゃね。

落ち込んでいられない。

太宰の言葉を借りるなら、”たかが一人ぐらい、なんだ”。

其れじゃ、人間としては駄目なのかもしれない。

だけど私は、腐っても元マフィアで、今の探偵社員だ。

一々気にしてなんていられない。


「何かあったら、訊くから。言えよ。」


無理すんじゃねえぞ、って笑う。

分かってるよ、ってつられて笑う。

幸せな日常。

明日も続け、明後日も。

何年たっても、ずーっと続け。

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