【文スト】私が絶対に決まってるだろう？【太宰治】

過去の失態 ページ27

〈太宰side〉


「…此処が、敵の拠点、か。」


私の愛するAを拐った犯人であり、仮にとはいえ依頼人だ。


「却説、如何しようかな…」


生かすか、殺すか。

之でも私は元ポートマフィアの最年少幹部だ。

恋人を危機から救うためなら、手段の清濁には拘らない。

何て云ったって、相手は指名手配の連続猟奇的殺人犯。

私だって、焦りを感じずにはいられない。

とはいえ、後先考えずに一人で来たわけではない。

万一を考えて谷崎君と国木田くん、与謝野女医に付いてきてもらっている。

谷崎君の幻像の異能は、見張りの可能性を考えると、かなり有能な能力だと云える。

国木田くんの独歩吟客は、武器の具現化に使える。

そして与謝野女医の治癒能力は、彼女が怪我をしていた場合に必要不可欠だ。


「潜入、しますか？」


「…まだだ。」


今は、行くべき時じゃない。

谷崎君が不思議そうな顔をするのも無理がない。

あれだけ必死に此処まで走ってきた割には私は落ち着いているし、急いだくせに、潜入の時間を遅らせる。

自分でも不可解な行動だと思うけど。未だ、その時じゃあない。

乱歩さんから依頼人…現段階では誘拐犯、の名は訊いている。

私が過去に只一人、殺し損ねた相手だ。

マフィアの情報を横流ししていた集団の長。

あの時は何故か捕まえ損ねてしまったが、今回はそうはいかない。


「今だ、谷崎君。」


「______細雪。」


さあ、制裁の時、だね。

静かに扉を開ける。相手の背後についたところで姿を表す。


「…やぁ。察しが良いね。却説、Aを返してもらおうか。」

彼女は、唯一私が本気で愛を誓っている女性なのだから。

助けないわけにも、いかないんだよね。

其の彼女もひどく驚いているけれど。

全く…私が助けに来ないとでも思っていたのかな。

具現化した小型の拳銃を男に突きつけたが、予測済みだったらしい。

勢いよく鳩尾に一発殴られてしまう。

まぁ、此処までは予測通りだけどね。

…然しこの痛みは予想外だった。

逃げろと叫んだは良いけれど、既にAの元へと放たれた炎。彼の異能だ。

もうそろそろ脱出しているかな？

私の目に映るの彼女は、未だ其処にいる。

頃合いか。谷崎君が異能を解除し、彼女の居場所が明らかになる。

そして代わりに異能を発動させるA。

男は、己の脳天をぶち抜いて倒れた。

彼が落としたものを見て、息を飲む。

君には、荷が重すぎたかな。

…強いのに、誰よりも心が弱いんだから。

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