【文スト】私が絶対に決まってるだろう？【太宰治】

想い、交差 ページ17

中也さんと出会って早十分経過。


『ねぇ…アイス溶けるよ。』


というか、もう溶けてるかもしれない。

その上、もう色々限界…

休憩の心算で来たのに、仕事中よりもずっと疲れてるんですが。


「あぁ、そうだね。じゃあA、帰ろうか。」


『…では。』


中也さんに軽く一礼して、踵を返す。

一歩踏み出したその時、


「待てよ。」


がっちりと右手首を掴まれて動けない。

私はもう、貴方を諦めたんです。

今更、思わせ振りな事、しないでください。


『っ…社員が、待ってるので。』


「そうか。悪ィ。」


するりと離された手。

どこか名残惜しく感じてしまう。

仮にも、過去の想い人だ。

探偵社への道を一歩一歩、踏みしめるように歩いていく。

ポートマフィアとは、正反対の方向。

少し寂しく思えてきて、握りしめたまま、胸元まで引っ込めようとした右手。

其れを防ぐかのように右手が繋がれて、私の指先が包帯に触れた。


「今は…私だけを見て呉れ。」


何時にもなく真剣な声色。

少し乱れた何時もの口調。

思わず彼の顔を見上げると、私の方は見ていなかった。

何処か遠くを見るような眼差しで、

只、前を見ていた。

でも、繋がれた其の手は、迚強く握られていて、少し、震えていた。

嗚呼、太宰も、こんな表情するんだなぁ。

彼に何があったのかも、

何故私が今こんな気持ちなのかも、

理由は分からないけれど。

こんな関係でも、


「大丈夫だよ、太宰。」


もう少し、私が傍にいようと思った。

消せぬ思い出→←未だ

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