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優しくて暖かい ページ5

毎日来る男。
その腕を噛んだ日、正直殺されると思った。
でもその男は怒りもせず自分が悪かったと謝った。
もしかしてこの人間は私に害を与えるようなやつじゃないんじゃないか…?

そう感じてから少しずつその人間に近づいてみる。
たまに此方を見る目は優しくて、見る度に怖い人じゃないかも知れないと思わされた。
でもすぐに逃げられるように狐姿のままでいる。

今日もその人間は来た。
何時も通り紙とにらめっこを始めた。
恐る恐る近づく。
昨日はソファーの端、今日は隣。
様子を窺いながら隣に座る。

此方を見た目が少し驚いてるように見えた。
そしてあの日と同じ様に手が伸びて来る。
殴られるかもしれない。
殺されるかもしれない。
でも噛んじゃだめ。そう言い聞かせて何をされるかわからない儘目をぎゅっと瞑った。

でも予想していた様な痛みは来ず、来たのは僅かな温もりだった。
優しく頭を撫でられる。
やっぱり怖い人じゃないかもしれない…。
だって撫でる手がこんなにも優しくて暖かい。
頭を撫でられたことなんて今まであっただろうか。
ふっと姿を戻す。
一番楽な人間に耳と尻尾を生やした姿。

「…怖くないか?」

私が小さく頷くと良かったとその人間は笑った。
感じたことの無い、知らない感情。
頭を撫でる手が心地良くてうとうととする。
流石に寝るのは気が引ける。

目の前で優しい笑みを浮かべる彼は甘くて優しい匂いがした。落ち着く…。もっとこの人を知ったら、この人を知れたら何か変わるだろうか。
この人は私をちゃんと生かしてくれるだろうか。

知りたい。
どんな人か、どうして私にこんなにも優しく接してくれるのか、誰なのか。

「もうこんな時間か。じゃあ、また明日来るから」

嫌、行かないで。
もっと教えて。あなたの事も世界の事も私の事も。

ぐっと彼の服の袖を掴む。
彼の表情は少し困ってる様に見えて手を離した。

「…ちょっと待ってろ」

そう残して彼は部屋を出て行った。
彼の置いていった紙の束、ペン。
何時戻って来るかな…。

数十分が経った頃、部屋のドアが開いた。
帰ってきた彼は私の手を握って目線を合わせてきた。

「来い。俺がついててやる」

私は彼の手を握り返した。
立ち上がった彼を追いかけるようにソファーから降りる。


部屋を出るとすれ違う人が彼に言葉をかける。
何処に行くんだろう。
怖い。彼の腕をぎゅっと抱き締める。

「怖いか?もうちょっと我慢してろ」

そう言ってまた頭を撫でる。
大丈夫、彼がいる。

見せたくないもの→←恐怖心の和らげ方



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紅野(プロフ) - ソリバさん» いつもありがとうございます…!続編になりそうな気もしますが、もう少し考えてみますね。 (2017年11月7日 23時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
ソリバ(プロフ) - いつも楽しみにしてます!できれば続編お願いします!! (2017年11月7日 14時) (レス) id: c80ce2fe4d (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - ニャン将さん» ありがとうございます!もう少し検討させてもらいますね…! (2017年11月6日 23時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 埃さん» いい作品だなんてありがとうございます…!何ででしょう… (2017年11月6日 23時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
ニャン将(プロフ) - 続編希望します!! (2017年11月6日 18時) (レス) id: a5f5e3b412 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅野 | 作成日時:2017年9月2日 16時

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