検索窓
今日:4 hit、昨日:4 hit、合計:100,195 hit

六十四言目 ページ19

膨大な闇の中から掬い出されて彼の眼という青い青い水槽の中に沈む。
その溺れは苦しくない。
寧ろ心地良い息苦しさ。
浅い水槽。
私一人しか入れない。
もう一人入ろうものならきっと全てが崩壊する。
本当に小さな水槽。
その中で溺れる安心感。
でも時間が経つとまた闇が私を襲いに来る。
無理矢理連れ出して広く深い真っ黒な中に落とされる。
左右前後のわからない闇が怖くて泣いても助ける者は誰もいない。
苦しい。怖い。段々と不安が押し寄せる。
必死に彼の名前を叫ぶ。
深い深い闇は私を死に近づける。
彼に声は届かない。
意識が薄れていく。

彼は何時も叫びの残響を聞いて闇から助けてくれる。
そこから出して彼の眼という水槽で私を飼ってくれる。
そう、その目にいるのは、その眼に映るのは私一人で十分なのだ。
瑞希さんなんか入れてやらない。
そんなに余裕のある水槽じゃないから。



「A?おーい、どうした」

彼の声ではっとした。
じっと目を合わせていたらしい。

貴方「…ごめん。ぼーっとしてた」

中也「体調悪いか?」

貴方「違うの」

彼の目元に触れる。
反射的に触れた方の目を瞑る。
彼の眼の中で溺れる私。
そんな死に方が出来たらなんて素敵なんだろう。
ゆっくりと触れた目元に接吻を落とす。
こんなに彼に触れられるのは私だけ。
彼の眼をこんなに見ていられるのも私だけ。

貴方「此処で飼われてるのは私一人だけでいい。私だけがいい。そう思ったの」

中也「よくわかんねェけど、手前が俺の事好きな内は手放す気ねェよ」

貴方「私が好きじゃなくなったら中也も私を好きじゃなくなるの?」

中也「いや、好きだからこそ、だ」

貴方「何それ」

好きだからこそ好きじゃなくなるの?
意味がわからない。

中也「手前が何より大切だから手前が嫌になったなら俺は身を引くって事だ」

貴方「相手が太宰だったとしても?」

中也「……それは話が違ェだろ」

深いため息を吐いて明らかに嫌そうな顔をした。
今のはちょっとした意地悪だ。
全く本気じゃない。

貴方「嘘嘘。冗談だよ。中也以外の人なんて本当に興味ないんだから」

中也「もうちょっとマシな冗談にしてくれ…」

貴方「そんな事言って、太宰じゃなくても嫌な癖に」

中也「当たり前だろ。俺以上に手前の事好きな奴なんている訳ねェ」

貴方「もしいたら?」

ただの興味本位なのに彼は本気の目で一言殺すとだけ言った。
彼なら本当にやりかねない。
まぁでもそれだけ愛されてるって事よね。

六十五言目→←六十三言目



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (196 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
785人がお気に入り
設定タグ:文スト , 中原中也 , 紅野   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

鶴媛(プロフ) - 紅野さん» わぁ!ありがとうございます!!お忙しいのに私の勘違いですみません!更新嬉しかったです、暑い日が続きますがどうかお体に気をつけてお過ごし下さい。 (2020年8月18日 1時) (レス) id: dda77e3f70 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 鶴媛さん» コメントありがとうございます。いえいえ!忙しくて更新が止まってしまっただけです!また空いてる時間で更新するのでご安心を…! (2020年8月18日 0時) (レス) id: b4d088780f (このIDを非表示/違反報告)
鶴媛(プロフ) - え、八十五話で終わりなんですか?かなり気になるところで終わってしまって少し残念に思います (2020年8月17日 4時) (レス) id: 5d76437753 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 橘明音さん» ありがとうございます。そう思ってもらえて良かったです。ゆっくりですが頑張りますね。 (2020年3月2日 11時) (レス) id: b4d088780f (このIDを非表示/違反報告)
橘明音(プロフ) - 最後のコメントありがとうございます。 私は受験終わったけど学校なくて本当に暇だったのでそう言って書いてくださること、本当に嬉しいです!更新楽しみにしてます。頑張ってください! (2020年3月1日 23時) (レス) id: 0fca2029db (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紅野 | 作成日時:2019年2月6日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。