【文スト】彼に好きとは言えない【太宰治】

好き？×９ ページ11

了承を得て探偵社の端で通話釦を押した。

貴方「はい、夕崎です」

『忙しいのに悪いね』

貴方「いいえ。何かありましたか？」

『実はね、今日来るはずだった新人の子が体調を崩して来られなくなってね。君はうちの店で一番人気の歌手だ。だからもし予定が無ければ代わりに出て欲しいんだが…。勿論、今日の分の給料は』

貴方「店長、行きますよ。そんな給料なんて気にしないでください。店長には借りが山程あるんですから」

『そ、そうかい？悪いねぇ』

貴方「いいえ、これから行きます。三十分くらいでつくと思います。歌う曲はいつも通り此方で決めていいですか？」

『勿論だよ』

では後ほど。と電話を切る。
これは大変だ。
うちの店は私を含めて三人の歌手が日替りで歌っている。
何せ音楽を聞きながら飲むのというのがうちの店のやり方だ。今までは二人だったのだが、この前新しい子が入って三人でやっている。
その新しい子が体調を崩したらしい。
全く。しっかりしてくれ。

とはいえやると決まれば急がなくては。
とりあえず歌う曲目を決めなくてはならない。
私の場合、自分で書いて歌う事が多い。その為、他の人たちと違い、自分の曲目は自分で決めて、バンドの人達と話し合って調整をする。
でもこうも時間が少ないと困ったものだ。

貴方「国木田！国木田くん！」

国木田「どど、どうした」

私と普段出さない大声に驚いたようだ。
だって緊急事態なんだもん。

貴方「急遽店入んなきゃいけなくなったから今日はもう行くね！」

国木田「そ、そうか。気をつけろよ」

それを聞いて探偵社を出る。
タクシーでも使えば早いんだろうが、生憎通ってない。
しかも急いでるというのに道路工事をしているため遠回りしなければならない。
困った。急がないといけないのに。
長い信号を待ちながら考えているとふと一人の人の顔が浮かんだ。
彼奴なら迎えに来てくれるかもしれない。
そんな思いで電話をかけた。

『何だよ』

貴方「あ、中也、今暇？暇でしょ？」

『暇でしょって何だよ！』

中原中也。マフィアの幹部で私の幼馴染兼愚痴を聞いてくれる飲み友達である。

貴方「急いでるんだけどさ、車出してくんないかな」

『急ぎ？そんなの俺の知った話じゃねぇよ』

貴方「今日休みだったのに急遽入ってくれないかって言われて！やらないわけにいかなくて！」

『ったく。わかったよ。今から行く』

貴方「流石中也！」

場所を伝えて電話を切る。
優しいなぁ…。

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