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二十九言目 ページ33

お風呂から出て着替え、リビングに行くと珈琲を飲みながら持ち帰って来た報告書の山を片付けている中也がいた。
私に気づくと手を止めた。

貴方「いいよ。仕事してて。もう大丈夫だから」

やっぱり先生みたいだ。
本当は忙しいのに私の前ではそんな風に見せなくて、でも夜中目が覚めたときやお風呂上がりにリビングを覗けば黙々と仕事をしている。
今の彼は先生そのものだ。
先生がまだ生きてるみたいだ……。
私が重ねすぎているのかもしれないけれど。

ソファーに座ると涙が止まらなくなった。
膝を抱えて座り泣いていると隣に彼が座る気配がした。

中也「どうした」

その声に顔を上げ彼の目を見た。
今、彼の声が先生の声に聞こえた。

貴方「先生……」

彼は先生じゃない。
わかっているのに彼が先生だったらいいのにと思ってしまう。

中也「ごめんな。お前の求めてる人じゃなくて」

貴方「ううん。いい、いいよ。中也は何も悪くないよ」

彼の優しさは何時も痛い。
いや、全部じゃないけど最近は特に。


少し落ち着いてきた頃、彼が口を開いた。

中也「なァ、何で死のうと思った」

貴方「……」

中也「言いたくないなら言わなくてもいい」

貴方「……嫌になったの」

中也「何がだよ」

貴方「……全部」

中也「何だよ全部って」

貴方「仕事も家事もこれと言ってできる事が無いことも、この異能も、見た目も、面倒な性格も。私自身の全部だよ」

中也の事で一喜一憂してでも何も進めない自分に嫌気が差した。
戦っても血を見たら駄目になるし、書類仕事をしていても詰まるとやりたくなくなるし、料理だって特別上手な訳じゃないし、掃除が好きな訳でもない。
取り柄がない。
そんな自分が嫌い。

中也「別に仕事だって家事だって出来てるだろ。異能だって使い道は幾らでもある。気分の上げ下げが激しいのも今に始まった話じゃねェし。そんなに言う程悪い事ねェよ」

貴方「……いいよ。無理して言わないで。わかってるから。自分の事は」

中也「無理になんて」

貴方「いいの!中也は優しいからそういう事言っちゃうのはわかるけど、実際私は何も出来ないの!記憶の中の先生に縋り付いて、振り向いてくれるはずない人の事考えて勝手に落ち込んで。私ってそういう人なの!マフィア内でもどうせ只の捨て駒にしか過ぎないんだから!」

はっと我に返って中也を見ると、彼は私を眺めた儘涙を流していた。
どうして泣いてるの……?何で?

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設定タグ:文スト , 中原中也 , 紅野   
作品ジャンル:恋愛
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紅野(プロフ) - お白湯さん» コメントありがとうございます。やっぱり同じになる人多いですよね。いつも名字つけようか迷ってつけるのですが読む人にとったらどうなんでしょうか……。 (2019年1月13日 22時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
お白湯 - 夢主ちゃんの名字が、私の本名の名字と読み方違うだけでびっくりしました(笑) (2019年1月13日 1時) (レス) id: fa6e0c5cd0 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 聖宮さん» ありがとうございます!頑張って書こうと思います! (2018年10月1日 23時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)
聖宮(プロフ) - 寧ろ書いて欲しいです、続編楽しみに待ってます! (2018年10月1日 20時) (レス) id: 956436ae5b (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 月詞さん» ありがとうございます!いつもゆっくり更新ですが頑張りますね! (2018年9月28日 19時) (レス) id: b65496d137 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅野 | 作成日時:2018年4月15日 0時

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