第五十三話 ページ9
『えっ、……あ…すま…すみません、あの、これ嫌いで、した…よね。』
“いつもの”オールバック。メイクはさほどしていないけれど。
『期末テスト近いので、気を引き締めようと…ほ、ほら、家がうるさい…から。』
「…で、何。」
怪訝な顔も、相変わらず綺麗だ。
5センチほど開けられたドアの隙間から会話する。自然と近寄ってしまい、長いまつ毛がよく見える。
『地元で有名なチョコレートなんです。お姫様がよく食べてたとか、なんとかで。』
鞄から取り出し、封を開けて中身を見せる。煌びやかな装飾が、その小ささに見合わないほどの値段を思わせた。
「……受け取ることに、何か深い意味があったりしない？」
『な、い…いや…どうでしょうね。』
Aは口元に手をやり、顔を赤くした。
所詮、名家の子孫。
シュラウドの名を目当てに近寄ってきている可能性も捨てきれない。
「あぁ、そう。」
信用はできない。
「…君さ、なんで僕に関わろうとするの？」
『はい？』
「繋がっておけば後々楽だから…で近寄られると困るし。先手は打っといた方がいいでしょ…。」
正直、恐怖もある。
突然ストーカーのように近寄られ、しかもそれがどうやらいい所の子供。何か利益がなければこんな風に、近づいてくるわけがない。
『違う…。あ、違います…。わ、僕は単純に、お友達になりたくて。』
「だからそれが意味不明だって言ってるんだけど。よくよく考えたらそうでしょ。なんの共通点もないキラキラ次期寮長が、まぁ、それも今どうなってるのか知らないけど、何を目的に」
ぐっと袖に力が入り、我に返る。
振り返ると、後ろでオルトが首を振っていた。
「……分かったよ…。」
5センチ向こうの彼は若干俯いて、手に持っている小箱を見つめていた。
「もらうから。」
出した手にそっと箱を乗せて、そのまま黙って立ち尽くす。
『…友達になりたいって思ったから…理由とかは、全然なくて。』
本当は、友達になんてなりたくない。友情で終わらせたくない。けれど、僕らはきっと、友達が限界だ。
『あの、おすすめされたソフト…声の、合成のやつ、あれ使い方分からなくて。こ、今度教えてください。先輩。』
先輩と僕を呼ぶ、あの友人の笑顔を真似たつもりが、頬が引きつってしまった。
不安がよぎった。僕は、ユウのふりをしなければ先輩と関われなくなってしまうかもしれない。
「…別にいいけど。」
『あ、ありがとうございます…！』
あぁ。
また、憧れを真似てしまう。
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りーふ(プロフ) - 本っっ当に素敵なお話で大好きです！文章が繊細で綺麗で、だけど重みがあって、、読んでいて不思議な感覚でとても引き込まれました。主人公君の感情の描写も複雑に書かれていて、とても素敵でした。完結おめでとうございます。素晴らしい作品をありがとうございました。 (7月2日 9時) (
レス) @page20 id: f6a41edea5 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 凄く面白かったです！つられて涙が出そうになるシーンもあり感情移入してしまいました。今後も楽しみにしています。 (2021年9月29日 11時) (レス) @page16 id: 45e8a4f7b3 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 文章のお色気がすごい伝わって来ました。夢主とヴィル、ユウの関係性が好みでした。イデアとも。 (2021年7月30日 16時) (レス) id: 88ef9ef77c (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 見ていて引き込まれる文章だと思いながら読んでました。とてもこの作品が好きです。 (2021年7月17日 21時) (レス) id: 137cf07f9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラウカ | 作成日時：2021年5月20日 1時
