第六十四話 ページ20
空が高くて星が綺麗。世界は丸くて、星は本当に瞬くんだと知った。
冷たい風と夜の深い闇の下、立ち尽くして空を見上げていた。
夢みたいだ。
「A、身体冷えちゃうよ」
夢みたいだった。
肩にストールが掛けられて我に返る。自分より幾らか背の低い少女。お見合い相手の妹で、話しやすくて気が楽だ。
『あぁ、ありがとう』
「綺麗だねぇ」
『そうだね…』
君も綺麗だよ、と言おうと思ったのに、副寮長を思い出してつい笑ってしまった。
どうして笑ってるの？と首を傾げる彼女に適当に言い訳をして、頭の中でまた、記憶に籠る。
告白まがいのやりとりをした、あの夜。
何事もなく寮に戻った。一緒に寝るとかそういうこともなく、さっさと帰って、その晩は眠れなかったけれど、僕らは先輩後輩のまま、友達になりきれなかった距離のまま、離れた。
お見合いは想像以上に上手くいった。というのも、お見合い相手だった姉には本当に自分の姉なんじゃと思ってしまうほどビシバシ指導され、その妹の方に痛く気にいられてしまった。姉は妹が幸せならそれでいいらしいが、なんだか釈然としないな。どっちと結婚しても王子になれるからいいや、なんて心の奥底を、誰も疑わない。
婚約まで時間はかからなかった。
手続きや諸々のマナーの勉強のため部室にも行けず、イデア先輩にもアズールにも報告できないまま退学の日を迎え、ユウが用意してくれたサンドイッチと、グリムからのツナ缶のプレゼントを抱えてここに来た。
サンドイッチは野菜の水分がパンに染みて最悪だったけれど美味しかった。ツナ缶は、さすがにここでは食べられないかな。でもきっと世界一美味しい。
ストールを彼女に掛けて、歩幅を合わせて城の中へ戻る。
歌い出す彼女に合わせて僕も歌う。ここ最近、歌えるようになった。アズールに何かあったのかと募る不安を、彼女の美声が打ち消す。僕も歌う。人外音声はもう鳴らない。
家とは比べ物にならないほど立派な城。
ここを手に入れたら僕は自由になれる。
柔らかく笑う可愛らしい彼女。
彼女の心を手に入れるためならなんだってする。
自由になるためなら、どんなことだって。
僕は、また彼に会うためなら、悪役にだってなれる。
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りーふ(プロフ) - 本っっ当に素敵なお話で大好きです！文章が繊細で綺麗で、だけど重みがあって、、読んでいて不思議な感覚でとても引き込まれました。主人公君の感情の描写も複雑に書かれていて、とても素敵でした。完結おめでとうございます。素晴らしい作品をありがとうございました。 (7月2日 9時) (
レス) @page20 id: f6a41edea5 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 凄く面白かったです！つられて涙が出そうになるシーンもあり感情移入してしまいました。今後も楽しみにしています。 (2021年9月29日 11時) (レス) @page16 id: 45e8a4f7b3 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 文章のお色気がすごい伝わって来ました。夢主とヴィル、ユウの関係性が好みでした。イデアとも。 (2021年7月30日 16時) (レス) id: 88ef9ef77c (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 見ていて引き込まれる文章だと思いながら読んでました。とてもこの作品が好きです。 (2021年7月17日 21時) (レス) id: 137cf07f9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラウカ | 作成日時：2021年5月20日 1時
