第六十三話 ページ19
意味が無いと思った。
『…あの、なんていうか、埋もれてて』
「何？」
『拾ってもらったの、クリアファイル…あれ、ちょっと忘れてて。覚えてはいたんですけど。』
「は、はぁ」
『ありがとうございました』
どうせもう終わるなら、わざわざ、友達になれそうだと思ってたなんて伝えなくてもいい。
「……」
先に進むんだ。このまま、ほぼ他人のまま、何も残さず終わらせてしまえばいい。
覚えていた、と言えない僕に反して彼は饒舌だった。拾ってもらった時、綺麗な人だと思った。何度見ても綺麗ですよね、先輩は。作ってない感じが好き。本当に好き。小さい声で、震えて、泣きながら。壊れたおもちゃみたいに同じ言葉を繰り返して、首まで真っ赤にして、その場に座り込んで。
あぁもうどうすればいいんだ。
部屋もほとんど片付いてしまった。
知って数ヶ月の人間に対して心を開いて想いを寄せるなんて、どうかしてるよ。
「…僕にエネルギーを使うのはあまりオススメしない、けど。…友達になれそうだと思ったことは、あるよ…」
気になっていたのかもしれない。オタクっぽいやつなんて山ほどいる。その中から彼を気にかけたのは。いや、止めよう。彼の気持ちが移ったんだ。そんな気がしてくるだけで、その気持ちは本物じゃない。人間の脳みそは、感情は、曖昧で嘘つきだから。
「…」
受け入れる勇気も、断る勇気もない。もしかしたら彼を一生繋ぎ止めてしまうかもしれない。
『何て言ったらいいんでしょうね、こう…お互いが今後も何も気にせず生きていけるような言葉、ないんですかね。』
「……」
『告白とかしないんで…。』
「いや…したようなもんだよ…。」
『正式なやつですよ。したら断れますか？』
「こ…断らなきゃいけないでしょ。君だってほら、色々あるんだし。」
『断らなきゃいけないって言い方狡いなぁ。』
こんなに近くにこなければ知らなかった声、匂い。自分だけ楽な道へ行く罰なのだと思うことにした。ずっとずっとこの想いを隠しながら生きていかなければいけない。
「君だって狡いよ。何も言わずに立ち去るって方法もあるのに。」
『ほんの少しだけでも残りたくて。』
バックアップなんて取らなくていい。すぐ消えて改変されてしまう記憶だとしても、僕に容量を割いてほしい。
「女々しい男は嫌われますぞ。」
『来世はちゃんと可愛い女の子になって先輩のお嫁さんになるんです。』
「激重フラグ立てないでもらえます？」
先輩に作られるロボットでもいいなんて、重いかな。
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りーふ(プロフ) - 本っっ当に素敵なお話で大好きです！文章が繊細で綺麗で、だけど重みがあって、、読んでいて不思議な感覚でとても引き込まれました。主人公君の感情の描写も複雑に書かれていて、とても素敵でした。完結おめでとうございます。素晴らしい作品をありがとうございました。 (7月2日 9時) (
レス) @page20 id: f6a41edea5 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 凄く面白かったです！つられて涙が出そうになるシーンもあり感情移入してしまいました。今後も楽しみにしています。 (2021年9月29日 11時) (レス) @page16 id: 45e8a4f7b3 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 文章のお色気がすごい伝わって来ました。夢主とヴィル、ユウの関係性が好みでした。イデアとも。 (2021年7月30日 16時) (レス) id: 88ef9ef77c (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 見ていて引き込まれる文章だと思いながら読んでました。とてもこの作品が好きです。 (2021年7月17日 21時) (レス) id: 137cf07f9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラウカ | 作成日時：2021年5月20日 1時
