第六十一話 ページ17
「よかったじゃない。」
「おめでとう。」
あっさりと、微笑みで返される。
「何？」
『…いや』
数歩身を引いて、体を
「土下座は禁止」
『あ、そっか…えっと』
姿勢を正して
「謝らないで」
『え』
「嬉しいよ、幸運の女神が微笑んだね。」
『…はい』
そういえば。2人はもう、新たな原石を見つけ出して磨いていた。自分のことを不要になったと卑下するつもりはない。ただ、納得した。安心した。切り替えの速さが、僕の好きな2人らしかったから。さすがトップに立って統べる者。どこまでも格好良く、惚れてしまう。
「あなた1人欠けたって困らないわ。」
『はい』
「だから謝らないで。」
『はい』
「残りの時間を楽しく過ごそう。」
自ら手放した距離が惜しい。優しさが痛い。
前みたいに、泣きつけたら楽なのに。
『はい』
目が痛くなるほど輝きを放って、視線を、心を奪って離さない。
僕もそんな風に、憧れられる存在になりたかった。
『幸せになります。』
思ってもないことを吐き出して、それを最後の言葉にして、部屋を出た。
夢だったのかもしれない。あの2人の隣に立って、行動を共にして。慰めてもらって、叱ってもらって、いつの間にかずっと遠くに行ってしまったけど。
散々人を振り回して、身勝手な人間だった。
いっその事、ここで。
毒薬は作れるんだ。結婚なんてせず、ここで、このまま全てを終わらせてしまえば。
なんて勇気もない。
壊した関係も、苦手なことも全て放り出して、誰にも文句を言われず、愛してくれる人と生きていける。幸せなはずなのに、数少ない優しい繋がりが僕を縛り付ける。記憶を全て消してしまいたい。でも、この楽しい記憶が無ければ生きていけない。
『青…』
鏡をくぐれば、人工的な、海の中のような体感温度の下がるハッキリとした青に包まれる。
20時。イグニハイド寮。それなりに人が歩いているのはこの寮の特徴なのか、それともうちの寮がしっかりしているのか。
僕もイグニハイド側の人間だけど、ポムフィオーレの腕章の効果は絶大だ。潮が引いたように人が周りからいなくなってしまった。
このまま先輩の部屋に行こうとしたら襲われてしまうかもしれない。寮長の身の危険を守るのも下の役目。気持ちは大いに分かる。現時点、幾つか視線を感じる。
適当に壁際で膝を抱えた。受け身な性格のため、こうして奇怪な行動を取れば誰かが連絡を取るのではないかと考えた。
数分後に現れた弟は、呆れた顔で魔導ビームを解除した。
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りーふ(プロフ) - 本っっ当に素敵なお話で大好きです！文章が繊細で綺麗で、だけど重みがあって、、読んでいて不思議な感覚でとても引き込まれました。主人公君の感情の描写も複雑に書かれていて、とても素敵でした。完結おめでとうございます。素晴らしい作品をありがとうございました。 (7月2日 9時) (
レス) @page20 id: f6a41edea5 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 凄く面白かったです！つられて涙が出そうになるシーンもあり感情移入してしまいました。今後も楽しみにしています。 (2021年9月29日 11時) (レス) @page16 id: 45e8a4f7b3 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 文章のお色気がすごい伝わって来ました。夢主とヴィル、ユウの関係性が好みでした。イデアとも。 (2021年7月30日 16時) (レス) id: 88ef9ef77c (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 見ていて引き込まれる文章だと思いながら読んでました。とてもこの作品が好きです。 (2021年7月17日 21時) (レス) id: 137cf07f9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラウカ | 作成日時：2021年5月20日 1時
