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ガチャンと切られて私は立ち尽くした。え?嫌なの?こいびと。思考は負の方向にぐるぐる回転していきそうになる。
やっぱりそうだよね、天使なんて私ごときが……。
その考えに至った時、出し抜けに明るい声が聞こえた。
「お、お前どうしたんだ?こんなところで」
銀の髪は照明によってキラキラ輝いている。目は赤と青が上と下で分かれている。なんて美しい。肩幅は広く筋肉もしっかり付いている。完璧に男だ。なのに私は美しいと感じてしまう。そう、言って見れば聖母のように。
「マリア」
それが口からこぼれたのは当然ことではないだろうか。聖母マリアを目にした時の感動も同じくらいなのだろう。
「いやさあ、マリアってやめろよ!」
私は昔もマリアと呼んでいたらしい。当然だろう。
「マリア、あの私」
「言わなくていい」
言葉を遮るとマリアは私の頭を撫でた。触れるだけで優しい撫で方。遠慮が感じられる。
「マリア、私連れて行ってくれる?」
マリアは一瞬硬直したが取り繕うにぎこちなく笑うと手を差し出した。
「行くぞ」
その手を掴むと暖かかった。私の手よりもずっと暖かい、熱いとも感じ取れる美しい手。
「お前手が冷えてんだな」
あっためてやるぜ!と笑うと彼は私の手をぎゅっと強く握った。
あったかい。この暖かさはそう、コタツのよう。温くて出て行き難い、甘い誘惑のような。
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作者名:何處 | 作成日時:2016年6月26日 21時