77 ページ29
振り下ろされた剣はザク、と大きく静かな音を立てて地面に刺さる
目の前の男はいずれ来るであろう衝撃に備えて目を瞑っていたがその音と共に瞼をあげる
振り下ろされた剣は空気のみを切り裂いて地面に刺さっていた
男は剣と私の顔を交互に見たあと、肺の中の空気を入れ替えるように大きく呼吸をしていた
「何故、ですか…？」
『お前達には死が救いになるとは思わない。』
「そんな…じゃあどうしろって言うんですか！私たちには他の道なんて！！」
『生きてるんだろ。』
彼等はその言葉に首を傾げる
考えればわかるようなことが分からないほど追い詰められている
ならば彼等にそれを教えてくれる人間が必要だ
仕方ないから私がそれをやってやる
『お前たちの愛しい人、守りたい存在はまだ生きているんだろ。
ならばお前達が死んで、その後どうするんだ。』
「それは…。」
『他の誰かに任せるか？お前達はそれでいいのか？
お前達にとって愛しい人達は、お前達のことをどう思ってる？
残された人達はどう感じると思うんだ？』
その場にしゃがんで跪く彼等に目線を合わせる
眩しいと感じてしまうほどの月明かりが当たりを照らした
『お前達も愛されてるだろ。
残される人達の気持ちを蔑ろにするな。』
はっ、と息を吸い込む音が聞こえる
追い込まれた人間ほど視野は狭まり脳は上手く働かなくなる
悪いのはその本人ではなく環境なんだろうがな
「し、しかし私達はどうすれば…。」
『私がお前たちを殺せばいい。』
は？とでも言いそうな顔を浮かべて困惑する彼等にため息を吐く
彼等は帰ったところで殺されるのは明白だ
知りすぎたものは消さねばいつ脅威になるか分からない
実際私もそういう依頼をいくつか受けてきた
ならば死んでしまえばいいこと
『殺す訳じゃない、殺したことにするだけだ。
最初から捨て駒としてここに居るなら帰らなかったら国はお前達を死んだことにするだろう。
しばらく身を隠せ。それが私が思いつく最善の方法だ。
お前達はまだ間に合うだろう。』
静かな夜に泣き声だけが響いていた
そろそろ行かなくては
踵を返して来た道を戻るために足を進める
「あ、あの、この御恩は必ず！必ず返します！！」
そう叫ぶ彼等に振り返ることもしなかった
もう彼等の人生に関わることはないだろうから
大体何もしてないのだから返す恩もないだろう
静かすぎる夜をひたすらに駆け抜けた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 264人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ライ - すごく面白いです！すごく大好きです！主さんのペースでこれからも頑張ってください！ (2022年3月27日 22時) (
レス) @page9 id: 9516bfdddc (このIDを非表示/違反報告)
千菜(プロフ) - 続編おめでとうございます！この作品リメイク前から大好きです！これからも応援しています！！ (2022年3月10日 0時) (レス) @page1 id: 4f425976bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：らい | 作成日時：2022年3月9日 23時
