◇ ページ45
ゆっくりと倒れていく体を受け止めて、目を閉じたままの山田に恐怖しか感じない。
浅い息で言葉を紡ぐ山田が儚く脆くて、今にも消えてしまいそうなんだ。
「…、き………ぃ、ちゃ、…す…き、…だ、す…ぃ…」
「俺の方が好きだよ…だから、消えないで……」
“大ちゃん、好き、大好き”
びしょ濡れで体温も感じないほど冷たいのに、熱で頬は赤いまま。
なんでだよ、俺のためにこんなことするなよ。
「待ってろよ、すぐに温めてやるからな」
「…ゃ、…」
抱き上げると何かを探すような仕種をして、凍えて動かない指で必死に俺のシャツを掴もうとしていた。
大丈夫。もう何処にも行かない。
「いるよ、ここに。ずっと側にいるから」
そう言うと微かに笑った。
そして全ての力が抜けてだらんと腕が落ちた。
「やまだっ？…やまだっ！…やまだ…」
呼び掛けてもぴくりともしない。
とにかく早く暖めないと。
服を脱がせてタオルで包んで暖房もいれて、溢れ落ちる涙が邪魔になりながら必死に動いた。
体温が戻ってくると時折顔を歪めて咳をして、ベッドに寝かせ買ってきた冷えピタを貼って一日中看病した。
夜中も数時間おきに様子を確認しながら、手を繋いでベッドの下で眠った。
早朝にはいつ目が覚めてもいいようにご飯を作った。
するとそのとき寝室から大きな音がした。
火を止めて急いで扉を開けるとベッドの下でうつ伏せになっている山田の姿。
「やまだ？！」
「っ、？！」
「お前落ちたのか！？」
「…な、で……」
「寝相悪かったっけ…？」
俺を見上げたまま固まる山田を抱えあげてベッドへと戻した。
効き目の無さそうになった冷えピタを剥がして額に触れる。
「まだ熱いな……あ、仕事なら日にち変えてもらったからゆっくり寝てろよ」
「…」
不思議そうな顔をしてどうしたんだろう？
言いたいことがありそうだけど、喉が辛く声をうまく出せないみたいだ。
「ここ、て、んごく…？」
「誰が死なせるかよ。
…あ、わりぃ、熱で頭やられてるのか」
そう言うと少しムッとした表情に変わった。
良かった、いつもの山田だ。
「でも、安心した…もう目を開けてくれない気がしたから」
自然と強ばっていた頬が緩むのがわかる。
一度も目を逸らさない山田に、今しかないと思った。
だって、もう約束したもんな。
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