◇ ページ44
隠し続けてきた年月が一気に駆け巡る。
夢を見ているのか、現実世界に足は着いているのか。
よくわからねぇよ。
その後は俺も山田も無言のまま。
余計な体力まで消費してしまった山田が眠った頃、体を痛めるから寝室まで運んだ。
今更汗で濡れた服を替えるのに変に緊張してしまう。
こんなにゆっくりと山田の寝顔を見るのはいつぶりだろう。
もしも俺が山田の立場だったら。
散々酷く抱かれて朝になればその姿はない。
好きになるか?そんな最低な男。
本当、俺は今まで山田になんてことをしていたんだ…
好きだと真正面からぶつかっていけば、傷付けてしまうこともなかったのに。
「…ごめんな」
とても穏やかとは言えない寝顔に、手を伸ばして触れたいけど許されない気がした。
窓の外の雨音は大きくなった。
それと同時に山田が辛そうに唸り声をあげる。
「…待ってろよ」
玄関に置いてあった傘を借りて財布を片手にドラッグストアへ向かった。
冷えピタや薬と飲み物、あとはゼリーとか食べやすいものを買って、さらに強まった雨の中、ビニール傘に当たる大きな雨粒を見つめながら山田の泣き顔を思い出して胸が締め付けられて苦しくなる。
俺はこのまま、またあの部屋へ入ってもいいのだろうか。
次に目が覚めたときも俺がいていいのだろうか。
踏み躙る様な真似しておいて虫が良すぎちゃいないか。
「…どうしたらいいか、わかんねぇよ…」
ずっと、ずっと、好きだった。
大切に優しくしてやりたかったのに切なそうに“大ちゃん”と呼ばれると、
溢れ出してしまいそうな想いを消すために唇を噛むことしかできなくなった。
それでも離せなかったのは本命じゃない、代わりの誰かの痕を見つけてしまったら
ギリギリの自制心が簡単に崩壊したからだ。
自分勝手なのは十分知っていたけど、あんなになるまで山田に負担をかけていたのに逃げていた。
ちゃんと言わなくちゃ。
“終わりにしよう”って。
一段と暗くなりどんよりした空気に包まれた部屋。
不自然に開いたままのリビングへの扉。
目が覚めた山田がまた無理をしてると直感で足を早めると暖めていたはずの室温が外かと勘違いするほど冷えていて、風でカーテンが揺れ奥の人物が見えた。
「……やまだっ?!何やってんだよ!!!」
「……、…ぃ…ちゃ……」
「馬鹿!」
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