◇ ページ41
“俺も今一人だから”
どんな理由でもその選択肢の中にいたのは俺だったってこと。
山田の片想いが実ったら俺は用済みになって、きっぱりと断ち切ろうと決めていたのに。
何処かで気持ちが俺に向いてくれたらと期待していた部分もあった。
俺からは引けるはずがない。
偽りでも何でも、その温もりに触れていられるなら。
「……バレたら、終わる……」
何度も言い掛けた。何度も飲み込んだ。
“好き”も“愛してる”もこの関.係には禁句だ。
欲を満たすためだけの行為と割り切らなければいけない。
本当にそんなことが出来たら楽だったのに。
数時間前に会っていたのに今、画面越しじゃ満足できない。
今日はうんと優しくしてやりたい。
また山田の家へ足が向く。
ただのセ フレに持たされた合鍵を使って部屋へ侵入した。
廊下も真っ暗でまだ寝ているんだろう。
起きたときに俺がいたらどんな反応をするのか……
拒絶されたら嫌だなと今更ながら臆病になる。
_______いない。
寝室を覗いたら脱ぎ 散らかされた服と乱 れたベッドだけがあって肝心の山田がいなかった。
あの体で何処へ?
他の部屋へ目を向けると一つ扉が半開きになっていた。
「……山田?」
応答はなく人気もない。
足元に何かが当たった。
シーツにくるまった震える体。
息が荒く、冷気の漂う部屋に似合わず高い体温。
これはやばい。
近くのソファに横たえて布団を掛けた。
暖房機のスイッチを入れて、薄い間接照明の中、目が覚めたときに食べさせようと見よう見まねのお粥作りを始める。
こんなことを思うのは不謹慎かもしれないけど、
少しだけ、恋人っぽくて幸せだった。
自分が馬鹿で良かったと開き直るほどに。
それからほどなくしてもぞもぞとする気配。
「……あ、山田、起きた?」
うっすらと目を開いて宙をさ迷ったあと熱のせいで潤んだ瞳が一点で止まる。
「…んぅっ、……」
「……大丈夫か?」
まだまだキツそうな山田の頬に触れる。
熱が上がっていないかの確認の“つもり”で触れたいだけだった。
「…ど、したの…?…帰ったんじゃ…」
「あぁ…仕事が急に無くなってさ…」
だからって、ここにいる理由にはならないかもしれない。
本当のことなんて言えないから、山田に勘違いさせた。
「……いいよ。昨日の続き、する?」
「……」
「そのために、来たんでしょ…?」
そうだよな。俺がいる意味って、体だけ。
俺自身を求められてる訳じゃない。
山田もそう思ってる。
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