◇ ページ37
「…久しぶり、大ちゃん…」
「裕翔、なんで、山田…」
「何言ってんの。
その為に俺に知らせてきたくせに」
3年ぶりに見る姿は思い出すレベルじゃなく、ずっと側にいたみたいに悲しいほど何も変わっていなくて。
ここが人の通り道だと言うことを忘れて泣いてしまいたくなった。
「早く、ヤマを一番目のお客さんにしてあげてよ」
いつの間にか後ろに回った裕翔が俺の肩を押して、大ちゃんの前に押し出された。
その勇気の方がきっと俺より泣きたかったはず。
「…いらっしゃいませ、山田涼介さま」
どこで身に付けたのか、お姫様をエスコートする王子さまのように手を引かれて入った店内は
ブラウンベースの落ち着いた雰囲気なのに小物の遊びが利いていて、これまた俺好み。
「すごいね、大ちゃんのお店なんだ…」
「今はな。」
「？」
「覚えてねぇ…か…。」
遠い目をする大ちゃんは、さっきの俺と同じ様なことを言う。
覚えてない？忘れてる？
それはどっちだよ。
「ずっと夢だったんだ。こんなカフェをやるのが」
「あの、教えてくれなかったやつ？」
「山田には一番に言ったんだけどな」
カウンターに入って真新しい真っ白なカップを手に取り慣れた手つきでお湯を注ぎながら視線はそのまま話続ける。
「昔山田と見た映画でさ、夢か愛かを選ぶって話。
俺はガキだったから二人で叶えられる夢を見ればいいと思った。」
「覚えてるよ……じゃあ、このお店は、大ちゃんとその彼女の…」
「肝心なとこ、忘れられてんだな…。笑」
ソーサーに乗り甘い湯気を天まで上らせるカップが目の前に置かれ「どうぞ」と促されるまま手に取った。
ふぅふぅ、数回表面を揺らして口に含む。
いつも作るのは俺だったから、恐らく初めて大ちゃんの淹れたココアを飲んだ。
甘く優しい香りが口一杯に広がりただの客として来ていたら自然と笑みが溢れる味。
「…甘くておいしい…」
寂しい心に溶け込んで混ざり合う。
それを見届けて向かいの席に大ちゃんは座った。
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