◇ ページ35
「…夢って、なんだったの……?
俺には言えないことだったの……?」
ずーっと昔、まだ小学校に入って間もない頃。
親の趣味で連れられて観に行った映画が、夢を追いかけるために離れ離れになってしまう恋人の話だった。
あのとき大ちゃんは、
“大事な人の為に夢を追いかけることって出来ないのかな?”
って、言ったんだ。
子供だったから覚えちゃいないだろうけど、大ちゃんが夢を叶えるって言ったときから誰か大切な人ができたのかって気になった。
けど、そんな影すら見せないから何処か安心してた。
「ばかっ、……ばかばかばかっ!」
知ろうとすれば知れたのに、、、
変な拘りやプライドがこんな結末にしてしまった。
全部、自業自得。
一度だって口に出したことのない言葉を、この虚しい空間で言ってやろうか。
沈むだけ沈むために余計に惨めになってやろうか。
「…すきだった…いまも、すきみたいなんだよ…っ…」
何の音もない部屋には大きすぎる乾いた自分の声を直接耳が拾う。
それを聞いていたかのようなタイミングでポケットの中で震えだしたスマホ。
《明日、一緒に行きたい場所がある。》
裕翔からのメッセージは暗闇に慣れた目を痛ませた。
______
「何処に行くの?」
「着いてからのお楽しみ!
あ、もうすぐ電車来ちゃうから走るよ!」
断るのも気が引けて《いいよ》と返事をしたものの、行き先はおろか目的も聞いていなかった。
「何処まで行くの?」
「ヤマの気持ちをちゃんと聞きたいと思って」
「……ゆうと、俺……」
「今はまだ何も言わないで」
裕翔のことだからきっと俺の好みに合わせた場所をセッティングしているんだろう。
そんなことをしなくても俺の気持ちは変わらないのに。
決めたんだ。
もう大ちゃんのことは忘れて、
裕翔と向き合うって。
「ヤマ、ここだよ。」
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