◇ ページ31
「プロデューサーと寝るつもりか?」
「……」
肯定も否定もしないなら、
俺にまだ止める権利があると捉える。
「やめろよ、そんなこと」
「俺には皆といる場所を守る義務がある。放っておいて」
「放っておけるかよ!」
山田の前に回って両肩を掴む。
濡れた睫毛の奥、
「今頂いてる仕事も全部無くなるんだぞ?
皆で作ってきたものを失うくらいなら、どうってことねえよ……」
「……」
そこに寂しがりで強情な目をした山田がいた。
____止められなかった。
「……心配してくれて、ありがとう。
またな。」
バタンッ……____
閉じられた扉は光を吸い込むように僕らの時間に終わりを告げた。
「さよなら、……またな」
元に戻れるなら、それが一番良いに決まってる。
何より山田がそれを本当に望んでいるのなら。
これで、いいんだよな。
_______二日後
「おはよう」
「「おはよう!」」
レギュラー番組の収録で全員集まった。
遅れて楽屋入りして挨拶を済ますとその姿がないことに気づく。
「……山田は?」
「さっきまでいたんだけどな」
「トイレじゃない?」
「そう……」
なかなか戻ってくる様子もなく、
スタッフが俺らを呼びに来た。
「まだ山田が……」
「山田さんならスタジオにいらっしゃいますよ」
行ってみれば言葉通り山田は既にスタジオセットの中で、一見いつも通りの顔をしていた。
「涼介早いよ」
「気合い入ってんな。笑」
「まあな。笑」
「…おはよう」
「…、おはよう」
やっぱり、無理だ。
俺に向ける笑顔だけがぎこちない。
「涼介このあとどうするの?」
「ご飯行こうって話してるんだ」
「俺、事務所に用があるから」
知念と圭人の誘いを断る口実が“事務所に用”なんて、疑いたくなくても疑っちゃうよ。
本当にそうなのか?
さっさと帰り支度を終えて扉の向こうに消えていくのを黙って見送れなかった。
「山田!」
「っ…、大ちゃん……何?」
「このあと何処行くんだよ」
「……事務所に」
「嘘つくなよ」
「っ……」
廊下の真ん中で大きな声を出したから何事かと回りの視線が一斉に集まった。
山田は『すみません』と謝るけど俺はその腕を掴んで使われていないスタジオへ連れ込んだ。
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