◇ ページ30
もしも伊野ちゃんから聞いた話が本当なら
あの日、悩んでいる様子だった山田の説明もつく。
「……」
その反面、ただの噂であってほしいとも思った。
部屋はモノクロの世界で、山田が来ていないことはすぐに分かった。
まだ仕事中かな……。
“終わったら、ここに来るから”
その言葉を信じて待った。
そして、時計の針が真上で一本に重なる頃、ｶﾁｬﾘと鍵の開く音がした。
玄関まで走っていくと丁度扉が開いて山田の顔が見えた。
「……」
「……お邪魔、します」
「どうぞ……」
こんなに畏まって部屋に上がってくる山田は初めてだ。
改めてことの重大さを感じた。
「……何か飲む？」
「ううん」
「……」
「……大ちゃん、」
少しの沈黙のあと山田が小さな声で俺を呼んだ。
それはあの夜の話の合図だ。
山田から切り出させてはいけない。
「山田、本当にごめんなさい。
謝って許してもらえるとは思ってないけど……」
「……後悔してる？俺と寝たこと。」
「……」
「……もう、忘れていいよ。」
「えっ……」
「何もなかったことにしよ？これからのこともあるし。」
「でも、それじゃ、……」
「いいんだよ。大ちゃんは何も悪くないから」
「そんなわけ」
「もう帰るね。次会うときは元の関係だよ。」
一方的に話をまとめて終わらせて全部一人で抱えてしまうのは山田の悪い癖。
最初からそう決めてきたのか、側に置いた荷物を取ると合鍵をテーブルの上に置いて背中を向けて遠ざかっていく。
「待てよ」
でも、許さないよ。そんなの。
俺が山田のためにできることがあるなら。
強めに引き留めると素直に足を止めてくれた。
「番組のプロデューサーから言い寄られてるって本当か？」
「っ…、、、」
「それで、悩んでたんだろ？
何で相談してくれなかったんだよ」
「……大ちゃんには、知られたくなかった。」
「……」
「俺、……ぉれ、…っ……」
肩が震え出してだんだんと小さくなる声に泣いているのは強がる後ろ姿でも分かった。
「やまd「プロデューサーと寝る前に、大ちゃんに抱いてほしくて……」
「っ…」
「だから、大ちゃんは何も悪くない。
全部、嘘……。
俺が誘った、大ちゃんが酔ったのをいいように。
謝るのは俺の方。ごめんね。」
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