よく言うよ◇13.11.29 ページ50
*
A、
入るよ。
聞き慣れた声がして、うっすら目を開けた。
真っ暗な部屋に少しだけ、扉の奥の光が差し込む。
扉を開けた音が聞こえて、顎に引っ掛けてあったマスクで口を覆う。
「…うつるよ」
「大丈夫、すぐ戻る」
咳をしたかったのを我慢した。
顔を扉の方に向けると、
同じようにマスクで顔を覆った碧海が、
何だか大荷物を持って、ベットのそばに来て、しゃがんだ。
起き上がると、頭がクラクラする。
体温計を手渡されて、それを脇にはさめる。
「冷えピタぬるいでしょ。持ってきたよ」
碧海は私の前髪を上げると、冷えピタを剥がして、
タオルで汗を拭いて、新しいのを貼った。
…ちょっとズレてる…。
「ポカリいるでしょ?ごはんは?」
「いらない…今何時?」
「夜の12時。みんな寝てる」
「碧海も寝ないと…」
「明日は日曜だから」
ぼーっとしながら、一昨昨日のことを思い出す。
保健室に行って、早退して、病院に行ったら、
診断結果はインフルB型。
碧海には、別の部屋で寝てもらってるはずだった。
体温計が鳴って、
取ってみると、38度。
「下がってきたね。良かった」
「うん……みんなに、ボイトレ付き合ってあげられなくて、ごめんねって、伝えて」
今日も碧海たちは練習だった。
「そんなみんなからお見舞いの品が届いてるよ」
碧海は沢山の包みや紙袋を指さす。
これはぷんちゃん。
これは白服さん。
こっちが二番くん、そしてこっちが順番に、ぜっちゃん、げるたん、とみたん、
この大っきいのが、のっくん。
で、今Aの頭の下にあったのが、野崎さんからの氷枕。
碧海は全部並べて、見せてくれる。
「んで、こののど飴がにーちゃんから」
「…」
「時間なくてちゃんとしたの用意出来なかったけど、無理は禁物、だってさ」
ぼすん、と頭を枕に預ける。
「…よく言うよ」
「本当だよね」
碧海は目を細めて笑った。
「でー…何だったっけな。みんなから伝言も預かってる。あったかくして寝ろとか、ちゃんと飲んでちゃんと食べろとか、悩みがあったらちゃんと言って、とか…」
「うん…」
「子どもなんだから、無理しないで、って」
「…それは、ぷんちゃん?のっくん?」
「さあ、どうだったろ」
碧海はのっくんからの、大きい包みを開けて、
中から大きな猫のぬいぐるみを取り出した。
わぁ、って思わず声が出る。
碧海はそれを、枕元に置いた。
私の寝返りでぐちゃぐちゃになった毛布を、
整えて、掛け布団と一緒に、
丁寧に肩まで引っ張ってくれる。
「ありがとう」
「ううん、あのさ…」
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ひな(プロフ) - ご指摘ありがとうございます!!申し訳ありません、うっかり忘れてました…(_ _)更新頑張ります、よろしくお願いします…! (2018年10月7日 19時) (レス) id: 81ab03c3d0 (このIDを非表示/違反報告)
葵 - 楽しみにしてます!これからも更新頑張ってください〜!あ、あと(人1)の変換ないので作るか全て(名前)に統一して下さるとありがたいです! (2018年10月7日 16時) (レス) id: aa9580c9fd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作成日時:2018年10月6日 5時