ひかる２

どうすればいいか◆13.04.29 ページ21

＊


リハが始まった。
今日は俺のソロは無いけど、
人1のソロがあるようなもので、少しだけ、不安がある。

淡々と進んで、
先生がはけ、かしましが始まる。
人1はメンバーと一緒に、一つ前のラブレボの後のMCから参加することになってる。

ぜっちゃんから始まり、
二番くん、野崎さん…
ぷんちゃんは人1のそばに居た。
サビの振りも、他のメンバーの歌詞に対応した振りも、ちゃんと出来てる。

俺の出番が終わって、
人1の名前が呼ばれた時、

人1は歌わなかった。
直前に、ぷんちゃんのTシャツの裾を引っ張って、
ぷんちゃんはにーちゃんと前に出て歌った。

頑張って表情を作ろうとしても、
人1はやっぱり、引きつったような笑顔だ。


かしましの直後には、Voyageがある。
ステージに立ちながら、ちらっと袖の人1に目を向ける。
暗闇の中でぜっちゃんが、背中をトントンってしたり、さすったりしてる。

ほんまに、できる？
うん、だいじょうぶ…。
そんな会話をしてるみたいだ。

「あおいくん、集中して」
白服さんがマイクから口を離して、こっちを見た。
「あっ、はい…」
はっとして目線を前に向ける。

大阪公演より、キャパは少ない。
でも人1にとっては、これが恐ろしくて仕方ない。


リハが終わっても、開演まではまた時間が空く。

Voyagerが終わって、
ウォークラが始まるまで、
白服さんが俺の所に駆け寄ってくる。

「…Aちゃんは、人の目が怖いの？」
俺は黙って頷いた。
「俺も…理由はよくわかんなくて。でも…」

ぷんちゃん、げるたん、のっくんも、集まってくる。


「……Aは、ある日、声が出なくなった」


もう、三年くらい前になる。

「今は、ちゃんと歌えるよ。でも、ある日から、人の前に出ると、声が出ないの。
頭の中の楽譜とか、歌詞とか、音程とか、全部、飛んでっちゃうの…」


観客席の奥の母さんが、人1のいる所へ向かっていったのが分かる。
ウォークラ、始めよ、って、ケースケ先生の声。
袖からみんなが出てくる。
俺はマイクを強く握りしめた。


白服さんたちはぽかんと口を開けて、
何も言えないまま、所定の位置についた。


人1を、歌の道に連れ戻すべき？
人1は確かに、歌が好きだった。
でも…。

一つの画面を通してなら、やっと歌を歌うことができるようになった。
なのに、今日という日に、
さらに人1の心を、…喉を、
閉ざしてしまったら、どうしよう。

それが怖い。
こればっかりは、どうすればいいか分からないから、もっと。

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