【刀剣乱舞】右手に黒薔薇、左手に拳銃 (ページ3)

今日:29 hit、昨日:8 hit、合計:7,821 hit

前日譚3 ｢それはきっと、密会。｣ページ3

｢それ(・・)｣はやって来た。1枚の紙だけを持って、そこに。
｢それ(・・)｣は通された。そこのある一箇所の密室に。
｢それ(・・)｣は対面した。鴉のように黒い髪の男と、机を挟んで。

2205年、時の政府本庁内。はじめに口を開いたのは、｢それ(・・)｣の方からだった。無感情な表情のまま、｢視線の不明瞭な瞳(同心円目)｣で彼を見据えて。

｢僕へ直接の依頼を出す人間は、珍しいよ。皆当主を通すんだ。それが僕達『一族』への正しい流儀(・・)だから｣
｢分かってるさ、だがこちらにも事情があるんだ。頭のいいアンタなら理解してくれるな？『ハイドレンジア』さんや｣
｢ああ、あなた達の事情は全て把握させていただいている。『的(ターゲット)』のことも｣

無表情に頷く｢それ(・・)｣に、男は背中に冷や汗が伝うのを感じる。ごく簡単な内容の書簡を出しただけなのに、既に｢目標(ターゲット)｣のことまで知られているとは、と、苦笑いを浮かべた。そのまま言葉を紡ごうとする。

｢ならば話は早い。『ハイドレンジア』、アンタへの依頼は──｣
｢残念だけれど、お断りさせていただくよ｣

｢それ(・・)｣は抑揚のない声で男の話を制した。無表情に、無感情に。不気味に見開かれたその瞳からは何も感じることはなく、ただ鋭いナイフのようなオーラがあるだけだ。
男は驚いてしばらく黙ってしまったあと、ようやく一言だけ問いかけた。

｢……何故だ？｣
｢簡単だ、僕らの流儀に反している(・・・・・・・・)から。全く清くない。次に依頼を出す時にはこれを覚えておくといい、『清くあれ』という言葉を｣

男は何も言えなくなり、同時に憤りも覚えた。裏社会で日々人を殺しているこいつら(・・・・)が、｢清さ｣を語るだと？フッと、男は鼻で笑う。

｢では話の方向を変えよう。『ハイドレンジア』、いや、『センサー(・・・・)』｣

ぴく、と｢それ(・・)｣は反応する。不明瞭な表情からは何も分かることなどないが、しかし確かに反応(・・)はした。

｢……『黒薔薇のハイドレンジア』ではなく、『censor(センサー)』としての僕に依頼をするのかな｣

無表情のまま、こてんと首を横に傾ける｢それ(・・)｣。相変わらず抑揚のない不気味な声だが、しかし確かに｢それ(・・)｣は男に言った。

｢いいよ。『censor(センサー)』としてなら、依頼を受けてあげよう｣