【刀剣乱舞】右手に黒薔薇、左手に拳銃 (ページ2)

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前日譚2 ｢それはきっと、非情。｣ページ2

真夜中の月明かりを、人気のない住宅街の中｢それ(・・)｣は無視するかのように駆け回る。的(ターゲット)を追い詰めるように、疾く、静かに。

的(ターゲット)もまた、建物の陰に隠れるように走っていた。｢それ(・・)｣に見つからぬよう。

右手に黒薔薇を、左手に拳銃を。

｢それ(・・)｣はただ無表情で駆け抜けていった、月光の青白さの中を。

たんっと屋根に飛び上がり、その上を、跳んで、駆けて、｢それ(・・)｣は確実に的(ターゲット)と距離を詰めていく。ネズミと猫の追いかけっこだろうか。否、これは哀れな蝿(・・・・)が叩き潰される(・・・・・・)直前の光景だ。

いや、その表現は優雅ではない。訂正しよう。

一輪の花(・・・・)が、手折られる(・・・・・)前の光景だ。手折られた花は、そこでその生を終える。その美しさを保ったまま、雅に、優雅に。

｢ハァッ、ハァッ、ハァッ……クソっ、来るな、来るなァっ……!!!｣

的(ターゲット)が追い込まれたそこは、既に行き止まりを指し示す壁が高々とそびえていた。ああ、可哀想に。

｢やめろ、やめろやめろ!!! 金なら渡す、いくらでも渡す!!! 命だけは取らないでくれ、俺を殺すな、殺すなァッッ!!!!!｣

みっともなく地面に這いつくばり、壁に手を当て正面に向き直る的(ターゲット)。彼を覗き込む｢それ(・・)｣は、実に不気味で無感情な、｢視線の不明瞭な瞳(同心円目)｣をしていた。

｢あの世で彼にこう伝えて。『黒薔薇はやって来た』と｣
｢ひっ……嫌だ、嫌だッ!!! やめろ、殺すなその拳銃を下ろせ、俺の命を取るような真似をするな!!! 俺を殺さッ──｣

ダァンっ！とその弾は心臓を撃ち抜き、的(ターゲット)は力が抜けたように動かなくなる。ああ、可哀想に。

｢それ(・・)｣はその場に、その証(・・・)を残して去っていく。

一輪の黒薔薇。そして……｢black rose has arrived｣と書かれた1枚の紙を。