【刀剣乱舞】愛せないから愛させない。* 肆色*

56色目 ｢迫ってくるイケメンから逃げるなと言われる方が無理な話｣。 ページ23

一体何を口にするのだろう。私は何を薬研に命令されるんだ……!?
もう怖い、薬研が怖い。いや怖くないけどもいやでも怖い。この私を！ここまで！動揺させるんだぞ！

｢あー、その、だな｣

この場にいる全員が、薬研に注目している。薬研が何を言おうとしているのか、全員が耳を傾けている。

｢さっき大将、言ってたろ。｢逃げも隠れもしない｣って｣
｢……？あ、ああ……言ったな、五虎退に｣
｢それで思った……いや、思い出したんだ｣

思い出した？思い出したって何を？
なんだか嫌な予感がしながら、冷や汗が流れるのを無視して薬研の顔を見る。いや、見てはいるが、視線はなるべく合わせないようにしている。目が合うと死ぬから。私が。

｢大将、これは勝者としての、命令だ。よく聞いてほしい｣
｢おっ……おう……｣

どくどくと心臓が脈打ち、緊張のあまり手が震えている。ごくりと誰かが唾を飲む音も聞こえた。この場にいるやつらも、気になってるはずだ。

申し訳なさげに、しかしまっすぐに私を見て、はぁっとため息をつきながら薬研は私に言った。

｢大将。いきなり叫んで俺から逃げるのは、もう二度としないでくれ｣
｢……はぇ…………????｣

変な声が出た。私そんなに薬研から逃げてたっけ？
本丸に来てからの数日間を、逆算して思い出す。思い出し……ヒュっと喉から変な音が出た。

｢そっそれはっ……それはぁっ……む、無理無理無理!!!! 無理な話だ!!!!｣
｢いや無理と言われてもだな大将。これは命令だ。聞いてくれ。思い出してくれ、この鬼ごっこは｢刀剣男士に出せる力の範囲ならどこまででも｣命令できるんだ。俺は俺の刀剣男士としての神力を使って、大将に無理やり命令を聞かせることもできるんだぞ｣
｢えﾞっ……そっ……そんなことが可能なのか!?!?｣

神力、と聞いてサッと血の気が引くのが分かった。だから今剣が｢命令のルール｣を持ちかけた時、薬研は警戒していたのか！

｢俺はなるべく神力なんて使いたくない。だからお願いだ大将。もう俺から逃げないでくれ……いきなり叫ばれるのだって心臓に悪いんだ……｣
｢それは……それは……ゔっ……ゔゔゔ……｣

先程立ち上がったはずの私は、またふらふらと地面にしゃがみ込んだ。そんなことを命令されるだなんて思ってなかった。
しかしどちらにせよ私は敗者であり、薬研に捕まった、という事実がある。ここはもう……諦めるしかない。

｢分かったよ……その命令、聞くよ……はぁぁ……｣

57色目 ｢もう本当にいい加減本丸全体の間取りを覚えないといけない｣。→←55色目 ｢全員を私の刀にするまでにはきっと程遠い道のりがある｣。

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