Chapter ページ4
目の前の襖を開けると、幾つもの鋭い瞳が私を映す。怯えること無く中に入り、後ろ手で襖を閉めた。
「はじめまして。私は久我Aさ。よろしく、する気は無いみたいだねえ。」
憎悪、殺気、怯え、様々な色を含んだ瞳が私を見る。
その中でも一番殺気を含んでいる刀が、一歩私へ近づく。周りは動いた者を見つめるだけで、着物の擦れる音が響いた。
「人間よ。ここに主は必要ない。帰ってはくれぬか」
一番殺気を含んでいる割には落ち着いた声色。
流石、人間より遥か永い時を生きているだけはある。
「悪いねえ。天下五剣の三日月宗近さん。私は帰るつもりは微塵もない。そして久我Aと言う名がある。人間と一括りにしないで頂きたい。」
ここの主が居なくなってからは彼が他の刀を纏めていたのだろう。簡単に予想ができた。
私が彼の名前を呼ぶと、微かにだが表情を動かした。なんだい、私よりもよっぽど人間らしいじゃあないか。
波が揺れるように"人間に対する嫌悪"を口にする刀が増える。しかしそれは、三日月宗近の言葉によって止まった。
「人間は皆同じであろう」
そうだ、と同意の言葉が飛び交う。
「はは、三日月宗近。君は学習能力が無いのかい?今まで見てきた人間が、全て同じだったかい?まあ例え、そうだと言われても私はここから消えるつもりは微塵もない。悪いねえ。」
三日月宗近の動きが止まった。それは、息が止まったようにも思える。
悪い、と言いつつ、私は心の底では悪いとは一切思っていない。それが音となって響いているわけだから、彼らにも届いているだろう。
「ざっと見るに、ここには重傷者が数名。いいのかい?ずっと痛みを感じるままで。痛いと訴える身体を無視して、動き続けて。……まあこれは、君たちが決めることだ。私にゃあ、関係ない。ここは空気が重たいから、暫くは離れを使わせてもらうことにするよ」
動ける者は皆この部屋へ集まったのだろうか。重傷者はいるが、そんなに数はいない。つまり、他の部屋にも居ることだろう。動けない程、酷い傷を負った刀が。
「用があったら離れへおいで。いつでも歓迎するよ。君たちは、人間じゃあ、ないからね。何のもてなしも出来ないけれど。」
黙り込んだ刀達をいいことに、私は言いたい事だけを全て言い切る。そして、もうここには用がない為、刀たちに背を向けて離へと向かった。
ダメだねえ。敵が背を向けた瞬間が、一番の狙い時だと言うのに。
でもまあ、今回は特別かな。
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伽倻(プロフ) - メンタル弱い系人間さん» コメントありがとうございます。図々しくなんてありませんよ!面白いと言って頂けてとても嬉しいです。応援ありがとうございます。頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。 (2018年1月28日 16時) (レス) id: fb5b5e8505 (このIDを非表示/違反報告)
メンタル弱い系人間 - 初めまして!!図々しいかもですがこのお話とても面白いです!!応援しています!!伽倻さんの作品の良さがもっと伝わって欲しいです!! (2018年1月28日 15時) (レス) id: ba1024f461 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伽倻 | 作成日時:2018年1月24日 23時