作家先生、出会う。 ページ43
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「福沢さんっ! 福沢さんっ!」
元気な声が後ろから聞こえて来る。
呼ばれた当人――――福沢諭吉は、顔を顰めて振り返った。
「乱歩、もう少し静かにしろ」
「福沢さん、あそこの喫茶店に入ろうよっ!」
学帽を被った少年――――江戸川乱歩は、道向こうに見える喫茶店を指さして云った。
「これから依頼人に会って話を聞くのだ」
「だって約束の時間までまだ時間があるじゃない」
「甘味が食べたいのなら話が終わってから――」
「えぇやだぁっ! 甘い物食べたいっ! 依頼人の所に行きたくないっ!」
駄々を捏ね始める乱歩。
こうなると梃子でも動かぬ子供だ。
今回の依頼も、乱歩が居なければ話にならない。
福沢は頭を抱えて深く溜息を吐いた。
「……食べたら先を急ぐぞ」
「わーいっ!」
福沢が先に折れると、乱歩は表情を明るくさせて喫茶店へ走って行った。
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「どれが良いかなぁ〜。福沢さんは何にする?」
店のテーブル席に座り、メニューを眺める乱歩。
福沢は「要らん」と云って椅子の背凭れに寄り掛かった。
ふと、足元に何かが落ちているのに気が付いた。
身を屈めて拾い上げると、大判の茶封筒だった。
数十枚だろうか、中身で封筒には厚みがあり重みもある。
誰かが落としたのだろう。
「何それ?」
注文し終わった乱歩が茶封筒を見て尋ねた。
福沢は「下に落ちていた」と答えると、乱歩は「見せて」と手を出して来た。
茶封筒は乱歩に渡り、封筒の外面を眺めてから、中を開き始めた。
「おい、人の物だぞ」
福沢の制止も無視し、乱歩は茶封筒の中身を引き出した。
「原稿用紙?」
首を傾げる乱歩。
福沢も身を乗り出してそれを見る。
束で入った原稿用紙には、既に文字が書き込まれていた。
「論文……否、小説かな?」
乱歩はペラペラと用紙を捲り、中を読み始めた。
他人の物を勝手に読んで良いものだろうか、と福沢は少々不安を覚えていた。
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麗(プロフ) - 36ページ 2ヶ所ほど 』が 》になっていたところあります。 (2021年5月20日 19時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
雪代 - めちゃめちゃ好きです…!!もうなんか乱歩さんが主人公ちゃんが可愛くて可愛くて…!!応援しております!m(_ _)m (2018年9月30日 22時) (レス) id: bf2f1ee446 (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - 乱歩さん……私を殺さないでください…。大好きです (2018年9月17日 21時) (レス) id: 7f970af50c (このIDを非表示/違反報告)
にゃー - 乱歩さん可愛!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (2018年8月29日 15時) (レス) id: c7e146b978 (このIDを非表示/違反報告)
ひにゃたこ - 面白すぎて敬語が抜けそうです←関係ない。更新頑張って下さいっ! (2018年8月17日 9時) (レス) id: 3f5d227eff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ネコぱふぇ | 作成日時:2018年7月29日 22時