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話の肝はそこじゃない。分かっていながらあえて話をすり替えて黙り込んだ。愈史郎が指をさしてくる。
「こいつ今めちゃくちゃ照れてるぞ」
「えっ、えっ?」
「日輪刀ってどこにいけば保管されてるっけ?」
「生憎だがあるとすれば産屋敷本家くらいだろうな」
「そうかい、多少時間を要するが待っていてくれたまえね」
頬杖をついた手で口元を隠しながら俯いていると、蜜璃がふふふっと笑った。
「ふふっ、Aちゃん、とっても可愛かったのね! キュンとしちゃうわ」
「君ねえ……」
……仕方ないだろう。
しのぶや小芭内が、私の話を楽しそうにしていたなんて言われたら、普通に照れる。
「色々あったみたいだけど、御館様も他のみんなも最終的には意志をひとつにしたんでしょう。私もね、同じ気持ちよ」
「……君は教師じゃないだろう」
「うん。だからお友達」
頬を外した私の手を、蜜璃が両手で包んだ。
「私は自分の『キュン』に正直に生きるの。私が私で決めたのよ。前世のA君の行いと、今世のAちゃんは関係ないから」
「……自分らしく生きられているのだね」
「ええ!」
花のほころぶような笑みに誘われて思わず表情が緩む。途端に彼女がパッと手を離し、その頬を押さえた。
「Aちゃん、優しく笑うこともできるのね。可愛いわ!」
「やだなぁ、前世から優しく微笑んでいたよ」
「嫌味がたっぷりと含まれていたがな」
愈史郎の野次にころころと笑う彼女が可愛らしい。前世では殿方を見つけるために鬼殺隊に入ってとうとう柱にまで昇格してしまった物珍しい女だったが、常に明るく鬼殺隊に光を降らせていたと記憶している。
その笑顔がAに向けられたことは一度もなかった。師と同じように人を食らう鬼を決して許さず、人々の笑顔を守りたいと心から願っていたからだ。
真正面から彼女の笑顔を見て、小芭内君の気持ちが少しは分かるなぁ、とぼんやり思った。
「……ん?」
ふと。
Aの脳裏にとある企みが
「……ねえ、蜜璃ちゃん。小芭内君とよく行く定食屋があると言ったね」
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