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咳払いを一つして話を変えようと口を開いたとき、玄関のほうで扉が開く音がした。
「おや、君の家はひょっとして幽霊屋敷として自由に肝試ししてもいいことになってるの?」
「そんな訳無いだろう、普段は人に擬態している」
「断りもなく人の家に上がり込むなど最近の若者はどういう神経をしているのやら」
「お前が言うなっ」
そんなやり取りをしている間に、足音は静かに廊下を渡り、一度愈史郎の部屋に向かった。
「いいのかね、君の大事な『珠世様』が産み描かれる神聖な部屋だろう」
私が小声で指摘しても彼は何も言わない。やがて足音は部屋を出て、私たちのいる茶室へやってきた。
「先生、こちらですか?」
「え?」
「え?」
ふわふわとした輪郭の甘い声。
桜餅を食べすぎたせいで変色してしまったという特徴的な髪色は今世でも健在の模様。しっかりと記憶に焼き付いている。
対する向こうも、私を見てすぐに目を見開いたあたり、私がこの世に生まれ変わっていることは知らなかったようだ。
「ええーー!?」
「蜜璃……」
素っ頓狂な悲鳴を上げたのは、四百年前の最後の柱の一人、恋柱・甘露寺蜜璃だった。
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「蜜璃、君は本当に凄い子だ」
恋の呼吸を見つける前に炎の呼吸の指導をしてくれた師範、炎柱・煉獄杏寿郎の隣で、鬼殺隊を統べる産屋敷家当主耀哉から直接お褒めの言葉を頂戴する、身に余る幸福。
下弦の鬼を倒し、階級を上げた甘露寺蜜璃は、半年に一度の柱合会議に呼ばれ、空いている柱の地位を賜ることとなった。
自分が自分らしくいることを許される場所で、遺憾無く神様より授かった体躯を捧げ、人々の命を守る。それが、甘露寺の心からの喜び。
「恋柱として、鬼殺隊の模範となってほしい」
「はい! 頑張ります、御館様っ」
胸がドキドキする。高揚感、達成感。今までの血の滲むような努力が認められたような気がした。これまで以上に鬼を倒し、たくさんの人の命を救いたいと思った。
そのとき、ふとその場の空気が張り詰めたような気がした。
「──おやおや、せっかくの目出度い日だと云うのに、僕を呼んでくれないなんてつれないなぁ」
屋根の上に、
濡れた鴉の羽のような黒髪と、紺の着物に鼠色の羽織。薄桃の瞳の彼は、甘露寺を見てにこりと微笑んだ。
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