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初めての転生のとき、兄上の病気の関係で日本にある大きな病院を転々と巡った。それらの地で仕事場から兄上の病院までの道程や、手土産を探しに行く際、必ず愈史郎の血鬼術である「眼」の札を額に貼っていた。
しかし何年経っても見附からず、次第に兄上の病気が悪化して私は病室に篭もりっきりになり、兄上が死んでからはショックで愈史郎のことなどすっかり失念していた。
再度生まれ変わって、何食わぬ顔で家を訪ねたときは、前の世と変わらぬ顔で深いため息をつかれてしまった。
そんなことを繰り返すことおよそ四百年。珠世は未だ行方知れずのままだ。
「だが、今世がこれ迄とは状況が違うのも事実であろう? 君が望むのであれば、しのぶを使えば私が秘密裏に行っている鬼の研究より遥かに高い精度で君の身体を調べられるしね」
「鬼の血が薄まり、人間に近づいている可能性──だな」
私が生まれ変わった世界に、鬼はもう愈史郎一人しかいなかった。鬼を人間に戻す薬の研究は、兄上に見つかる可能性を考えて全て記憶作業で行っていたらしい。
膨大な実験と失敗が繰り返されただろうに、その全てを憶えて調合を探し出すなど、人間業じゃない。一人が鬼とはいえど。
というわけで、人間とは根本から異なる造りをしている愈史郎の身体を独学で研究し、彼の鬼の血が薄まり出しているという説の裏付けとなる根拠を探し出すのに二百年ほどかかってしまった。
しかし、愈史郎は首を振る。
「折角の申し出だが、珠世様を見つけるまで人間に戻るつもりはない。来世で結ばれる約束がある。珠世様が生まれ変わって来られるまで、いつまででも待ち続けてやるさ」
「そんなことしていたらしのぶちゃんが死んでしまうだろう、彼女の記憶があるうちに作るだけ作ってもらっておいたらどうだい?」
「お前なぁ……」
眉をひそめた彼にクスクスと笑ってみせると、目を瞬かせた彼がふと神妙な顔で椅子に座り直した。
「なんだね急に」
「いや。何だか明るくなったな、A」
「……そうかな」
「ああ。四百年の付き合いだ、それくらい分かる」
視線を逸らしてお茶を啜るのが私流の照れ隠しであることも、四百年の付き合いである彼にはバレているのだろう。
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