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「劉備は三顧の礼を尽くしたと云うが、私は二度で十分だったね」
「今すぐ追い出してやってもいいんだぞ」
「おや、久しぶりに茶葉を変えたのだね」
あからさまに話を変えた私を見てため息をつきながらも、出会ったばかりの頃に比べてその表情は随分と優しくなったと思う。
彼からしてみても私は珠世の話ができる唯一の相手であるから、四百年も経てば少しは打ち解ける。
最初の頃に記憶を頼りに私も珠世の絵を描いてやったことがあり、それで一気に距離が近くなったように感じる。
魅力が引き出せていないだとか、彼女の頬はこんな赤ではなくてバラがほころぶような色をしているだとか酷評も酷評だったが、自分の出力でない彼女の絵が生まれたことは、彼にとってはかなり有難い出来事だったらしい。
「前に来たのは七年前だったか。どうだ最近は」
「その前に毎世お馴染みの血液検査といこうか」
「ああ……お前まだ十五とか六とかじゃないのか、どこでそんなもの手に入れた」
「これ? しのぶちゃんからちょっと拝借してきてね」
「成程な……」
納得しかけてそのまま大人しく針を差し込まれた彼は、「は?」と顔を上げた。
「しのぶ? 胡蝶?」
「動かないでくれるかい、君が怪我するか否かはどうでもいいが針が折れたら私がしのぶちゃんに怒られるだろう」
「黙って持ってきたのか。いやそうじゃなく」
「そう。それこそが、今日君に話したかったこと」
ニヤリと笑ってみせ、私はしのぶとの出会いからこれまでのことを簡単に話した。驚いた顔で聞いていた彼は、次第に眉をひそめたり、眉間を押さえたり、苦笑したり。
「ああそうそう、話の続きの前にこれ」
「助かる。大正ならともかく、今の世じゃ医療体制がしっかりしすぎていて血もなかなか買えなくてな」
「だろうね。君はインターネットに疎そうだし……医者になったらまた輸血パックからいただいてきてやるから、それまではひもじいのも我慢したまえ」
手土産に持ってきたここへ来る前に採取した私の血液を舐めながら話を聞く彼は、今迄で一番楽しそうだった。
「……話は分かった。前世の記憶を持って生まれ変わった人間がお前の他にもたくさん現れた今世だから、珠世様が転生されている可能性もあると云いたいんだな?」
「ああ。……でも、あまり表情が芳しくないね」
眉を下げて、彼は自嘲気味な笑みを浮かべていた。
「珠世様は鬼で在らせられた方だ。あいつらみたいに簡単にはいかないだろう」
「そうかな」
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