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彼女は思い詰めたような顔をして自分を見てくるしのぶを見上げ、こてんと首を傾げた。
「……あ」
そっと手を離す。
「……ごめんなさい。なんでもないの」
踵を返した。
当然だ、彼女は自分の罪により、もうしのぶたちと同じ時代を歩むことはないだろうと云っていたのだ。この子が彼女なはずはない。
仮に彼女だったとしたら、罪を赦され、きっともう記憶がないのだろう。彼女の人生は彼女のものだ。前世の業など、思い出さないほうがいい。
「──やあ。久方ぶりだね」
「!!」
振り返る。彼女は狡猾な笑みを浮かべていた。ニヤリと目を細めて、口の端を持ち上げて。
先ほどの穢れなき少女と同一人物とは思えぬほどの達観した目。それでいながら、どこかいたずらっ子のようなあどけなさが潜んでいる。
「あなたは──」
言葉を継ごうとしたそのとき、母親らしき人物が少女の名を呼んだ。
はあいと間延びした返事をして、少女は駆けていってしまう。もう小さな背が振り返ることはなかった。
「……」
しばらく呆然と見つめる。そして、微笑んだ。
今度こそ彼女に背を向ける。歩き出した。
さあ、明日から、新学期だ。
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