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 文字を読み進めるうちに、彼女の輪郭がだんだんと消えていっているような気がした。死ぬ決意を固めきったものだからだろうか。
 途中で読むのをやめようかとも思ったが、踏みとどまってなんとか彼女の言葉を目に焼きつける。


 しのぶ。


 最後のほうになって、ようやく自分の名前が出た。心臓が強く打つ。


 ごめんね。君のいる保健室の匂いが好きだった。ありがとう。


 唇が震え、噛み締めて堪えた。


 愈史郎。
 ◯◯(個人情報保護のため、翻訳では九州地方とだけ記す)で珠世らしき人物の目撃情報があった。
 ただし彼女には旦那と子供がおり、記憶の有無も定かではない。どうするかは君の判断に任せる。
 長年、ふらりと訪れる私に付き合ってくれて感謝している。最後まで手伝ってやれなかったのが、今世での唯一の心残りだよ。


 九十七(くしち)代目。否、耀哉。
 私は君の遠い先祖が赤子の頃から君たちのそばにいた。
 だからあの日、君が下した決断の裏で燃えていた責任の重圧とそれによる覚悟も分かる。そして同時に、やはりその決断を許せないでいる。
 ()は君が思っているよりずっと、君のことが好きだから。


「……そんなの……」


 御館様がご覧になったら、どんな顔をなさるか。
 分かったうえでの言葉なのだろう。だから、序文「すまない」と謝ったのだ。

 なんて酷いことを。今更になって愛おしいことを連ねて、遺された者たちがどんな気持ちになるかまで分かっていながら、一人で消えてしまうだなんて。


 読み進めるうちに、しのぶの胸には堪えきれないものが広がっていた。
 それが集まって、形作って、両目からこぼれ落ちていく。

 自分でも驚いた。彼女のことを、こんなにも愛しく思っていたなんて。





 ──もうすぐ夜が明ける。朝が始まる。
 鬼である私に朝日は似合わない。もう終いにしよう。

 もしもまた生まれ変われるのだとしたら、今度は君たちがいない世界だろう。だから、これが本当に最期。


 最低で最悪で惨めで滑稽な、愛しき贖罪の日々に終止符を。

 君たちと過ごした半年あまりは、案外悪くなかったよ。



鬼舞辻A





 「……っばか……」


 喉の奥が涙に濡れて言葉がつかえる。
 手紙を握ったまま、しのぶは声を震わせた。


「……あなただって……あなただって! あなたが思っているより、あなたのことが好きな人はたくさんいたのにっ!」


 立っていられなくなり、しゃがみ込んだ。膝に顔を埋める。


「……やだ……やだぁ……」

「……」


 宇髄は黙ってしのぶの背中をさすった。



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作者名:クラウン | 作者ホームページ:×  
作成日時:2023年8月13日 17時

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